第10話 暗い部屋
* * *
不快な目覚めだった。
逆さ吊りで振り回されたみたいに、頭の中が揺れている。背中を預けているはずの壁が、ぐにゃぐにゃと絶えず波打っているような気がする。
口と鼻の中が鉄臭い。額も切れているらしく、あごを伝って血が滴り落ちてくる。手で拭おうとしたが、ひじのあたりを何かで壁にがっちりと固定されていた。確かめようと目をやるものの、わずかな光もない闇の中では、自分の腕すら見えない。座ったまま身をよじると、固まった筋肉がぎしぎしと軋んだ。痛みはひどいが、とりあえず骨折などはなさそうだ。
もう一度体をひねってみる。すぐにもがくだけ無駄だと判断し、ひとまず目を閉じて体力の回復に徹することにした。
さて、これからどうするか。脱出しようにも体が動かない。完全な暗闇の中、自分がどこにいて、どんな状態になっているのかも分からない。
「兄ちゃん」
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。
顔を上げれば、自分の目と同じ高さに、よく知った顔があった。
「あり得ない。どうしてお前が、ここにいる」
これまでのどの夢にもなかった状況に、男は激しく動揺する。
目を開けても閉じても変わらぬ暗闇の中、彼の姿だけはしっかりと見ることができた。光が当たっているわけでも、発光しているわけでもない。安っぽい合成写真のように、彼の体だけが陽の光の下にあるように明るい。
暗闇の中に、明るい笑顔が浮かぶ。
「兄ちゃん、遊ぼ」
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