ゆりかごと私の鳥

[短編] [ミディアム] [ファンタジー度★★★]


「……ダメ、まだキミは外に出ちゃいけないの」

 大きな大きな鉄籠の中。そこでうずくまる純白のグリフォンに向けて私はそう言った。脇腹に巻いた包帯には赤く血がにじむ。



 鳥使いの私が初めて自分一人だけで卵から孵したキミ。美しい純白のその姿は、キミがいずれこの世界を救う者だということを示していた。

 世界が魔の手に落ちてから十数年。地はほとんどが焼け焦げて、空は赤褐色に染まった。生き残った私たちは砦を構えて勝機をうかがっている。



 いつか世界が平和になったのなら、キミと青い空を駆けたい。

 私は砦の塔にある自室、そこの小さな鉄の格子戸から、赤褐色の空を見上げてそう思った。

 でも本当は……。

 私は視線を落とす。視界に映るのは木の机、その上に並べられた白い風切羽の切れ端たち。

 キミには戦いに出て欲しくない。キミが傷つくのなんて嫌なの。あの空はまるで、キミが戦いで流さなくてはならない血のようだ。



 クルル、クルル、とキミが喉を鳴らす。

「ダメなの、まだ動いちゃ。傷が開いちゃうでしょ」

 私はまたキミにそう声をかける。


 ……切った羽が生えかわるより先に、脇腹の傷はふさがるだろう。そのことを分かっていながら、私は、キミの羽を切った。傷が治ってもしばらくの間、キミはこの部屋から外へとは飛んで行けない。


「……ごめんね、ワガママ言って」

 私はそうつぶやいて、籠に、キミの傍に歩み寄った。籠に手をかける。キミは甘えるようにくちばしを私の手に擦り寄せてくれた。私はそのなめらかなカーブをそっと撫でながら、古い子守唄を口ずさむ。

 もうじき夜だ。赤い空にも月だけは変わらずに昇る。私たちが目指す未来への道しるべのように。



 いつかキミは世界を救う。数多の戦いと、無数の傷の果てに。

 でも、だから。今はこうして、もう少しだけ――




~お題:課題曲布教アナリーゼSS※、課題曲・やなぎなぎ「カザキリ」~

※指定の楽曲を聴いて感じたままに書くショートショート。(楽曲の関連コンテンツ・内容への言及・固有名詞の使用などは不可) アナリーゼ…楽曲分析の意

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