襲歩! 襲歩! 襲歩!
[短編] [ダーク] [ファンタジー度★☆☆]
軽快な調べが鳴り響き、その合間に子どもたちの駆ける足音と甲高い声が聞こえる。私はそれを、口元にほほえみをたたえて聞いていた。
周りの村々から少し離れた、森の中にある教会堂。ここでは身寄りのない子どもたちを預かっている。私の愛すべき、居場所だ。
「ねぇアルルカン」
私はそう口にした。男の声がおどけた調子で、そうだなシスターそうしよう、と返事する。彼は、盲いた私の手助けをしてくれる。例えば、今はもうじき夕食時。子どもたちを中に入れないといけない時間だ。
夕食時。彼が差し出してくれる匙から、彼の作ってくれた料理を食べる。すくわれた一匙。口に含む。ほのかな塩味の温かいスープだ。
彼がいなかった以前は、もちろん自分一人であらゆることをこなしていた。私がこの教会堂に配属されて間もない頃。その時は、まだ子どもたちを預かることはしていなかったし、こんなスープなんて手間のかかるものは、とてもじゃないが、用意しようと思いすらもしなかった。
かつて私はあちこちで蹴り飛ばされるように追いやられ続け、この森の教会堂に行き着いた。
何もできない私。誰かを誰かを、救わなければ。誰かの誰かの、役に立たなければ。
そんな私に、意味を与えてくれたのが彼だった。
「ねぇアルルカン」
そう呼びかければ良い。男のおどけた声は言うだろう。そうだなシスターそれだけで。
彼の奏でる音が転げて。
森の中で生首が転げて。
私は道の上から転げて。
そんな私に、与えられる罪の事は分かっていた。
それでも。何もかも望まれるまま望むように。私無しでは存在し得ない彼のためなら私は。
〝共依存〟なんて言葉のない時代。そんな時代に、とっくのとうに私たちはそういう関係になっていた。
「ねぇアルルカン」
私の声におどけた男の声が応える。そうだなシスターそうするよ。
軽快な調べが鳴り響き、その合間に子どもたちの駆ける足音と甲高い声が聞こえる。私はそれを、口元にほほえみをたたえて聞いていた。まだ今は昼食を前にしたくらいの時間なのだけれど。私は、彼が差し出してくれる匙から料理を食べるのを心待ちにしている。
~お題:文字書きワードパレット・「道化師のギャロップ:罪、食べる、共依存」~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます