馬券を外す。社員をイジる。そして女子高生風に擬人化したトリを拾おうとするが、相手が角川系列のご令嬢だと思い出し、社運をかけて葛藤するブッコローしか知らない世界

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

女子高生風に擬人化したトリを拾うブッコロー

「くそ。また外した! 平日から川崎競馬場にまで来てやったのに当たらねぇ! 最近赤鉛筆の減りが早えな。赤字ばかり書いているからか……なんちって」


 ブッコローの口からアルコール臭とくだらない冗談が漏れる。

 いい感じにほろ酔いだ。

 泥酔はしてない。コンビニの安酒で酔えるわけがない。

 馬券を当てていれば派手に遊び回ったが、最近の競馬の収支は赤字続きだ。一発三連単の万馬券でも当たらないかなと、ついには平日競馬場に通うようになってしまった。

 このままではダメだ。

 ギャンブルに溺れている。

 どこかで変わらなければいけない。


「そういえば文房具王になり損ねた女も変わったな。色気づきやがって。さすがにパツキンはないだろパツキンは。眼鏡縁もゴールドだし。スーパーサイヤ人かよ。二度見したわ」


 動画配信で共にチャンネルの顔となっている有隣堂社員の岡崎弘子の変貌を思い出すと、少し酔いが覚めてきた。

 変わったのはカクヨムとのコラボからだ。


「やっぱあれか? カクヨムの熱田さん……いけね。二次創作にカクヨム社員の登場は許可されてないんだっけ? なんで有隣堂社員はよくてカクヨム社員の許可は書いてないんだ? まあいいけど。あのショッキングピンクアフロに触発されたか? 林家ペー・パー子さんを見習ってショッキングピンクアフロにしてたけど。今更言えねーよ。林家ペー・パー子さんは服装がピンクなだけ。髪色はちょっと茶色い程度だって。相川七瀬も通じないし、ジェネレーションギャップが怖いわ。夢見る少女はもういないじゃん」


 夜は深くない。

 夜行性のミミズクなのにブッコローは昼間から馬を眺めていた。

 競馬にナイターは少ないから勝たない日の帰りは割と早い。

 そんな自宅への帰り道。

 角を曲がるとうずくまっている少女がいた。

 ブッコローは危うく蹴飛ばしそうになる。


「うわっ! あっぶね。おい嬢ちゃん。大丈夫か。こんなところでどうした?」

「あっ……ブッコローさんこんばんわ」


 なぜか名前を呼ばれた。

 知らない顔だ。真っ白に輝くつややかな白髪。可愛いを凝縮した美少女フェイス。だらんと下げた大きく広がる袖。萌え袖というのだったか。明るい茶色の大きなコートを身にまとい、ミミズク耳付きのフードを被っている。

 こんな可愛い子は知らない。

 一度見たら忘れるはずがない。

 けれどこのミミズクフードはどこかで見たことがあった。


「先日は大変お世話になりました。ブッコローさんのおかげで乗り切れました」

「先日?」

「ボクのことを覚えていませんか?」


 思い出せない。

 こんなに可愛い子と会っていれば忘れるはずがないのに。

 真っ白な女の子の瞳が少し潤んでいる気がする。

 だが時には諦めと正直さも肝心だ。

 男ブッコローは素直に謝ることができる。そんなハードボイルドを目指していた。


「済まねえ。覚えてねぇわ」

「……そうですよね。ボクは一言も話してないですから」

「でも会ったのは事実なんだろ。覚えてない俺が悪い」

「いえいえそんな。謝らないでください。では改めて自己紹介させてもらいますね」

「よろしく頼む」

「カクヨムのトリです」

「……え?」


 信じられない自己紹介を聞いた。

 ブッコローの理解が及ばない言葉だった。

 カクヨムのトリ。

 あの丸っこいカクヨムのトリが、こんなすらっとしたスレンダー美少女のはずがない。

 聞き間違いだろう。


「もう一度言ってもらえるか? 聞き逃したみたいだ」

「カクヨムのトリです」

「聞き間違いじゃなかっただと!? なにその姿!?」

「ブッコローさんのおかげです」

「俺のおかげ?」

「はい。先日のコラボ動画でブッコローさんが『この子喋れないよね』と言ってくださいましたよね」

「……言ったな」


 動画の中でポロリと言ってしまった。

 カクヨムは角川系列のくせにマスコットも喋れもしねーのかよ、とは思っていない。断じて思っていない。でも言ったことは事実だ。


「ブッコローさんの指摘で、カクヨムの母体の角川さんが動きました。予算が降りたんです。カクヨム有志の協力もあり、ボクはボイスと擬人化した姿を得ました」

「角川スゲーな!」

「全てブッコローさんのおかげです。今日はその恩返しにきました」

「恩返し? お前……まさか鶴だったのか!?」

「いえミミズクのフードを被ったシマエナガです」

「ややこしいわ! えっ? マジエナガなの? 今や鳥界のアイドルじゃん」

「アイドルかどうかは知りません。個人的に尊敬するブッコローさんと同じミミズクがよかったです」

「嬉しいこと言ってくれるぜ」


 カクヨムのトリが朗らかに笑う。

 警戒なんてまるでしてない。人畜無害な笑顔だ。夜の街にまったくもって相応しくない。

 こんなところで一人うずくまっていたことといい危機感が皆無だ。

 元々シマエナガが危機感が薄く人懐っこいトリだ。巣が壊されても同じ場所に巣を作り続ける。巣作り? 待て待て待てヤバい方向に思考が行きかけた。

 巣作り子作りできちゃったはマズい。


「あーカクヨムの社員さんとかはどうしたんだ?」

「今日はボク一人で来ました。お世話になったブッコローさんに味噌汁でも作ろうかと」

「お……おう。味噌汁か」


 冷蔵庫に発泡酒しか入ってないとは言えない。

 このまま買い出しに行ってカクヨムのトリを家に連れ込み、卵を産ませるのか?

 いくら同じ鳥類だからと言ってもそれはマズいだろ。

 でも味噌汁ぐらいなら……って、コイツカクヨムのトリじゃん!?

 カクヨムって言ったら角川じゃん。凄い大手だろ。

 えっ? じゃあなにコイツ。角川一族に連なるトリってこと?

 そんないいとこの子を家にあげるの?

 しかも卵産ませるとか考えてるの?

 有隣堂吹っ飛ばされるわ!


 でも待てよ……角川の創業は1945年。

 有隣堂は1909年。

 歴史の深さなら勝ちだな。

 有隣堂やるじゃん。

 ブッコローの年齢は二歳九カ月。

 カクヨムは七歳だけどトリは四歳。

 うむ……家柄と年齢考えるとアリだな。しかも年上の幼な妻とか……やべえ。完全に頭の中が繁殖一色なんだが。競馬のやり過ぎか? 競馬ってブラッドスポーツだからな。血統は大事なんだよ。

 もしかして有隣堂とカクヨムのコラボは俺とのお見合いだった!?


「あの……ブッコローさん?」

「ああ済まない。俺は紳士だ。トリをこんな寒い外に置いておけない。家においでよ」

「はい!」


 ブッコローは決め顔でそう言った。

 そして家に連れ込んで……。


「……お前オスなの?」

「え? はい」

「…………その姿で?」

「男の娘って言うらしいです。WEB小説では珍しくないようで。海外ではトラップとも呼ばれるようです」

「WEB小説こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 このあとめちゃくちゃゲームした。

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馬券を外す。社員をイジる。そして女子高生風に擬人化したトリを拾おうとするが、相手が角川系列のご令嬢だと思い出し、社運をかけて葛藤するブッコローしか知らない世界 めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定 @megusuri

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