幽霊
まるべー
第1話
『こんなこともできないのかね!?君はこれだから仕事ができないのだよ!後輩にすら成績を抜かれて、恥ずかしくないのかね!!』
自分のことを怒鳴る上司。
『あなたはこの学校に進学するのよ!分かった!?はぁ?滑り止めにしか受からなかったですってぇ!?まったく、最悪な子供を持って私は気分が悪いわ!』
いつも自分のことを理不尽に怒鳴りつけてくる母親。
転々と自分の嫌な出来事を見せてくる悪夢を見て、俺はハッと目が覚めた。
ふと時計を見ると、時刻は深夜の2時。明日は会社が休みとはいえ、中途半端な時間に起きてしまった。
しかも、夢の内容が内容のためもう一度寝るという気持ちが一切湧かない。
「久々に、散歩でもしようかな」
思い立ったが吉日という言葉もある。俺はすぐにベッドから起き上がり、動きやすいラフな格好に着替えて、財布とスマホだけ持って家を出た。
冷たい湿った風が自分の頬を撫でる。夜特有の、不気味な、それでいて少し優しさを含んでいるような風だ。
「ここの公園も久しぶりだな」
目に映るのは桃ヶ丘第三公園。遊具はブランコに鉄棒、砂場だけと規模としては小さい公園だが、小さい頃はよく遊んだものだ。
『お兄さん、こんな夜中にどうしたの?』
突如、後ろから女の子の声がした。振り返ると、ベンチに座る、深い黒髪を揺らし、白いドレスを着た女の子がいた。
高校2年生くらいの、人生に希望を持っていそうな年頃の女の子である。
そんな女の子がなぜ、こんな夜中にこんな公園でベンチに座っているのか。まあ、家出か何かだろうと思うのだが。
「ちょっと眠れなくってさ。散歩がてらにって感じ。君は?家出か何か?」
『ふふ、そんな感じ』
…。なんだろう。この、目の前の少女に対する違和感は。耳に入ってくる声は何かエコーがかかっているようで、その声と口の動きも会っていない、チグハグな印象を与えた。
『私のこと、気になる?』
「!?いや、そんなことは…」
『明日のこの時間、またここで待ってるね』
びゅう、と少し強めの風が吹く。いつのまにか、目の前にいたはずの少女は、姿を消していた。
翌日、俺はその場所に向かっていた。明日は会社だってあるっていうのに、なぜ向かっているのだろう。
分からない。分からないけど、なぜか行かなきゃいけない気がした。
『あ、本当に来た。先生、あの人だよ。私たちを知覚できる人』
公園に着いた俺を待っていたのは、あの少女と、その近くには、見たことのない先生と呼ばれた女性がいた。
【へぇ、あの子が。分かったわ。こっちで処理しておく。安心して大丈夫よ】
直後、体に大きな衝撃が走った。倒れ伏した俺の目には教科書を手に持った先生と呼ばれた女性。
そのまま、おれの、、、意識は、、、、、、沈んでいった。
ピピピピピ、という目覚ましの音で目が覚める。もう、朝を迎えたらしい。
「まあ、今日は休みだから大丈夫。ってぇ!全然休みじゃないじゃん!!え!?俺一日寝てたの?休みの日丸々寝ちゃってたの!?」
スマホを見るとやっぱり出勤の日。仕方なし、と俺はため息をつくと、会社へと出発する。
「俺、疲れてたのかぁ?」
『先生、ありがとう』
【いいや、礼なんて受け取れないよ。所詮私は、君にできなかったことを他の人で代用して、自己満足してるだけだ】
『でも、自殺志願者を助けるなんて、誰にでもできることじゃないよ。先生は凄いんだから』
【そう言ってもらえるとありがたいけどね】
幽霊 まるべー @marub
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