5月5日①:互いに確認したら全部終わってなかった

ゴールデンウィーク最後の祝日


「・・・」

「・・・」


どうして、こうなったのだろう

いや、昨日のことを引きずっているわけではないのだ

むしろお互いに昨日のことは気にしないようにしている感じだから、関係はない

問題は、今、うちにいる四人のことである


「悠真、羽依里」

「なんだよ、慎司おじさん」

「どうしたんですか、慎司おじさん」


お手伝いとして父さんから召集された慎司おじさんは、俺の怪我なんてすっかり忘れて「今年は悠真もいるし平気平気。無理なら羽依里ブーストかけておけばどうにかなるなる〜」と言いつつ、実家でゴロゴロしていたらしい


・・・と、槙乃おじさんが電話越しに呆れ果てた声を出していた

爺ちゃんに代わり面倒を見てたんだろうな、あのデカイ子供の・・・

そんなことをしていたのが父さんにバレた慎司おじさんは電話越しに説教された後に慌てて実家を飛び出し、うちへ手伝いに来てくれたみたいだ


ちなみに、今日の慎司おじさんはお土産付きだ。とても珍しい

饅頭片手にうちへやってきたが、誰も食べる暇がないので現在進行系で俺と羽依里が口に放り込んでいる

ちなみに朝はゴールデンウィークも部活らしい。運動部って大変だな


「・・・なんで千重里と千夜莉までいるんだよ」

「毎年来てくれてるじゃないですか」

「そうだよ、しんちゃん。ちーさんとちーちゃんは毎年参加してるじゃない。五十里の長女と次女なんだから参加してないと、五十里のお祖父様にぴゃららーって言われるでしょ?ま、もう言われてそうだけど〜」

「・・・で、なんで「これ」までいるの」

「そればっかりは俺にも・・・」


慎司おじさんが指差す存在は、鮎川歩鳥

噂をしたらなんとやら。今年は彼もお手伝いとして参加するそうだ

・・・相方のぐっちゃんさんは背景と同化していたが、彼も付いてきているようだ

俺と視線があったことに気がついた彼は無言のまま会釈する

・・・何度か顔を合わせたことはあるんだが、一度も話したことないんだよな

ぐっちゃんさんの本名すら知らない。色々と謎が多い人だ


「これとはなんだい。歩鳥としんちゃんの仲じゃないか」

「どこから出没しやがった歩鳥・・・!」

「エジプトでミイラごっこして観光客を驚かせる遊びをしていたのだけど、飽きたから帰ってきた」

「そんな遊びどこで覚えてきたんだよ」

「聞いて驚け。歩鳥考案だ。今度しんちゃんもしよう。三人ならもっと楽しい」

「お前はもうどんな奇行でも驚かないけどよ、こおり。お前はよくこれに付き合うな!?」

「・・・俺がいないと、歩鳥を止める人間がいないだろう」

「こおり、さん」

「羽依里は初対面か。こいつ、郡陽一こおりよういち。「ぐん」って書いて「こおり」って読む苗字だから、歩鳥からぐっちゃんって呼ばれてる。俺達の同級生だ」


なるほど、ぐっちゃんさんは郡さんというのか。初めて知った

歩鳥さんと慎司おじさんが同級生なのは知っていたが、彼も同じだったとは・・・


「慎司、彼女は?」

「白咲羽依里。うちの甥っ子の彼女だ」

「は、はじめまして・・・」

「慎司おじさん、その紹介は・・・!」

「じゃあなんて言えばいいんだよ。同級生?幼馴染?お隣さん?それ全部ひっくるめても、今ここにいる理由は説明しにくいだろ」

「・・・真弘さんから、病気の女の子を預かっているとは聞いている。君が?」

「あ、はい。そうです」

「・・・無理、しないようにね」

「ありがとうございます」


歩鳥さんに付き合えている人だからどんな人かと思ったら、かなり良識的な人らしい

表情の変化はないが、言葉の一つ一つは柔らかい

こんな人だったんだな・・・今まで知らなかった


「・・・悠真も、腕、折っている。彼女のことは心配だろうが、二人でおとなしく座っているといい。今日は大人が頑張るから。慎司も歩鳥も、俺がきちんと働かせる」

「は、はい・・・お願いします」

「・・・お菓子、追加買ってこようか?」

「お、お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。気になさらず」

「・・・昔は、ボーロ頂戴って言ってきたのに」


少ししょんぼりした郡さんの隣で慎司おじさんと歩鳥さんが小声で話す


「・・・あいつ、悠真が二歳ぐらいの時で記憶が止まってないか。ボーロねだってきたのはそれぐらいの時期だろ」

「うんうん。それぐらいだね」

「朝が産まれる前、兄さんが長期的に家を離れないと行けない用事が出来たからって俺達が悠真を預かった時期があるもんな・・・」

「アホみたいに可愛がっていたからね、ぐっちゃん。その時から全然はるまの成長を見ていなかった弊害が変なところで出てる」

「・・・はるまじゃなくて悠真だぞ、歩鳥。間違うなって。兄さんからキレられるぞ」

「・・・まだまだはるまは未熟者だからね。名前を呼ばれようなんて甘いんだ」


「お前のその謎理論マジ理解できねえわ」

「きちんと呼ばれたかったら一人前に成ればいい。簡単じゃないか」

「・・・おい、それってつまり。おい歩鳥。俺と陽一の事も未熟者扱いか」

「それはどうだろうね?」

「正直に話せ歩鳥」

「嫌だね。ほら、二人共。ミーティング始まるから、お子様ズの相手はおしまいにして、真弘さんのところに行こうねー」


それから歩鳥さんはフラフラとリビングを出て、通り道のドアから店の方に向かっていく

その後を慎司おじさんと郡さんもついて行くように向かうのだが・・・


「そうか。もう十七歳だもんな・・・ボーロはもう好きじゃないのか。会えると聞いたから買ってきたのに」

「はいはい。陽一のお土産ボーロは後で全部悠真に流し込もうな!」

「なんだって!?」

「それじゃあ悠真。羽依里もごゆっくり!」


そういっておじさん達は仕事へ向かう

静かになったリビングで俺と羽依里は顔を見合わせて、お互いに大きな息を吐く

それから、先程まで郡さんが抱えていた鞄を一瞥するのだ


「悠真、あれ全部行けそう?」

「無理だろ・・・」

「多分食べきるまで逃げられないような気がしなくもないけど・・・」

「同感だ。全部食べさせられる。俺もそう思うよ」


ギッチギチの鞄は少しだけチャックが開いている

その中かから子供向けボーロのパッケージが見えるのだ

しかも一つではない・・・多分、鞄いっぱいに収納されていると思う


「牛乳、いる?」

「用意していただけると・・・」

「昼頃、買いに行こっか。後は、ネットで検索してから飽きない食べ方を探しておこうね・・・」

「ああ・・・」


類は友を呼ぶ。よく言ったものだと思うよ

歩鳥さんと慎司おじさんの共通の友達がまともなわけがなかったのだ

良識的に見えるけれど、やはり二人と同じく彼もまたどこかずれている

これから来る災難をどう対処するか考えつつ、今日が幕を開ける


「そういえば、悠真。課題終わった?」

「後、現代文だけ。見るからに面倒そうだったから最後に回した」

「しかも量が多いしね・・・結構大変だったよ」

「げぇ、最初にしておけばよかった。羽依里は?」

「私は化学と数学が・・・わからないところあって、止まっちゃってて・・・」

「先に課題済ませるか。もう残り少ないし、明日の予定もある。今日、仕上げてしまおう」

「そうだね」


それから俺たちはそれぞれの部屋から課題を持ってきて、リビングのテーブルに自分たちの課題を広げる


「・・・ところで悠真。なんでテーブル増設したの?」

「・・・そろそろ来るだろうと思うから」

「?」


ふとした瞬間に、家のチャイムが鳴った

・・・この忙しい日の来客なんてあの二人しかいないだろう

高校入学してからどころか、一人は中学時代から面倒を見ている

むしろ、あの二人じゃないと逆に怖いぐらいだ

念の為、誰が来た玄関まで誰が来たか確認しに行くと・・・そこには想定内の人物が二人立っていた

今回は、保護者付きで


「お助けください悠真様!」

「課題が!課題が終わらないんです!」

「・・・俺だけじゃどうしようもないから連れてきた」


「・・・やっぱりか。どうせ来るだろうと思って机、出しておいたから入れ。どこが終わってないんだ、廉、藤乃」

「・・・へへへ」

「互いに確認したら全部終わってなかった」

「な?どうしようもないだろ?」

「まったくだよ」


そんな二人を連れてきた尚介もまた、疲れ切っていた

この様子じゃ、朝から電話鳴りっぱなしだったんだろうな

藤乃と廉は知っている。二人で俺のもとに押しかけても「計画的にしてないせいだろ!ざまあみろ!」で追い返されることを

しかし、二人は知っている。それに精神的に疲弊させた尚介を添えるとすんなり家に通してもらえるし、勉強の面倒を見てもらえることを


まず尚介に電話をかけてから困らせて、最終的に「本標的」である俺の元に来る。それが奴らの常套手段だ

人の心とかないのか、こいつら

・・・しかし丁度いい。晩ごはん時まで居座らせるか

ボーロ均等計画のために、尚介には悪いが夜までここにいてもらおう。後は知らん


「まあ、とりあえず上がれ。今日中に仕上げるぞ」

「あざーっす!」

「おじゃましまーす!」

「いつもならここで引き上げるんだが、今回は俺もわからないところあるから面倒見てもらえると助かる。頼めるか?」

「おうとも」


三人を家に上げてリビングに通す

それから五人で課題へ取り組んでいく


「藤乃、俺が解いてる横で別の問題の答え写すのやめろよ」

「ぎくぎくっ!」


「廉、その教科書の下にあるプリント・・・俺の数学課題プリントじゃないか?」

「ぎくぅ!?」


「藤乃ちゃん、廉君・・・真面目にやらないと尚介君と悠真に追い出されるよ?」


最も、サボり魔の二人にとってはなかなかにきつい拷問のような時間だったみたいだが

俺達はそんな事を気にせず、時間を区切って午前中を過ごしていった

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