4月15日④:ようこそ!土岐山高一ヤバイと噂な写真部へ!
放課後、私たち六人は揃って帰り道を歩いていた
理由は簡単。午前中のシャトルランの時に取り付けた約束の履行を果たすためだ
財布がほぼ空になるのが確定な藤乃ちゃんと、不機嫌な私以外は楽しそうに歩いていく
私が不機嫌な理由は、あの後に行われた部活紹介時
その悠真の行動すべてだ
「・・・悠真のおバカ。まさか毎年あれをやっているわけじゃないよね?」
「やってるぞ」
「やってるやってる。でも先生の監修済なんだよね、あれ」
「先生もよく許可するよね。悠真の無表情牽制部活紹介。おかげで新入生の入部希望者はゼロだろうね。あれで入ろうと思う人いないし、入ったら入ったで要警戒対象だよね」
先生が用意した台本を、無表情で読み上げるだけの簡単なお仕事らしいのだが、それにしても言葉の数々に刺があった
「行事毎に部活動が強制的に入ります。学校行事に興味がない世間一般にいう「やばい連中」の集まりなものですから、青春をつぶす気満々の人間しか受け付けません」
「だからと言って、サボること前提にしているやる気と頭の緩い連中も断りです。学校に依頼を受けて学校行事の記録を行っていますので、やる気と根気と一番楽しいとされる高校生活をドブに沈める意志があり、尚且つ我々の指示に対して忠実に従える従順さがある方のみ、顧問の大島先生までお願いします」とか・・・
「暗に入るなって言ってるような気がするのだけれど・・・」
「まあ、先生側も撮影者が悠真だから創部を許可した部分もあるからね・・・撮った写真は学校の名前で販売するし、もうこれ一部活じゃなくて、学校運営の一部に関わってるって感じだし、先生側も管理できる私たち以外入れたくないみたいでさ」
「実際に、大島先生のところに行った子たちも、校長先生と生徒指導に囲まれて、入部を希望した理由を言わされたんだって〜。おっかないよね〜」
大体そこで完結するんだけど・・・」
「去年は一人だけいたよな。写真部全員面談までこじつけた子」
「そうだね、尚介。五十里がひたすら「なぜ」「どうして」「それが?」とか、言うこと成すことに無表情でケチつけるから、その子途中で帰ったんだけどさ・・・」
「まあ、後で他の部活で問題起こしたとかで退学みたいだよ、その子。猫被りが上手な子だったみたいでさ。いやー入れなくて良かったーよねぇ」
「色々と凄いね・・・」
創部以降も色々写真部にはあったらしい
しかし、そうなると・・・藍澤君と笹宮君が写真部に合流した理由も気になる
「あ、白咲さんが気になった視線で見てきたから答えようかな。僕と尚介が部活に合流した理由!」
「え、そんな視線送ってた?」
「さあ、廉はいつも突然だからな・・・まあ、聞いていていいんじゃないのか?」
藍澤君のお言葉に、悠真が軽く反応しつつ、それを見た笹宮君が疑問に答えていく
色々と連携が取れている気がするのが、少し面白い
「俺は以前柔道部だったが、故障で柔道ができなくなったんだ。そこで転部を勧められてさ・・・でも、柔道以外何をしたらいいかわからなかったんだよ」
「そこを、ちょうど機材の荷物持ちを探していた俺が目をつけた。隣のクラスに、柔道部からどこかの部活に転部したいって考えている奴がいると聞いてな」
「ああ、そういう・・・」
撮影機材も少なくはない。それに重いものだっていくつか持ち運ばないといけない時があるだろう
そこを、故障したとはいえ力のある笹宮君に声をかけたということだろうか
しかもそこが二人の初対面のようだ
「まあ、廉よりは楽だったかな・・・尚介を引き入れるの」
「異論はない。廉は面倒くさすぎた。俺が単純に思えるぐらいに!」
話によると、悠真と笹宮君はそこが初対面。一年の時のこの時期だとか
笹宮君の故障はどうやら、家の道場で起きてしまったことらしい・・・そして、今回と同じく体力テストで勝負して、意気投合したとか
「一年時の悠真はシャトルラン以外真面目にしてたよな」
「あの時はお師匠にデータ出せって言われたからな・・・シャトルランは百回超えておけば文句言わないからとか言われたし、それで・・・手を抜いた」
「しかし、あのもっさりで陰気の漂う悠真がこんな体力があるとは思ってなかったな。しかし・・・」
笹宮君の手が悠真の肩に置かれる
「顔よし、頭よし、身体能力よし・・・それに加えていくつか変な特技があるし、お前本当に死角ないよな・・・ズルくないか?」
「努力なくして今はなし。俺だってそれなりに鍛えているんだ」
「まあ、そうだわな・・・それはすまない」
話がだんだん脱線してきているが、それに二人が気づいていないわけもなかった
一通り話し終えた後、笹宮君が話の軌道修正をかけて、本来の話を着地させてくれた
「まあ、とにかくだ。そんな感じで悠真と関わりを持った俺は、荷物持ちでも部活に入っておけば変な部活に入れられる心配もないし、友達が創部した部活だし、手伝えたらなって思って二つ返事で引き受けた。これが俺の写真部在籍理由になるな」
「なるほど・・・」
「じゃあ、次は僕だね。僕の場合は、仕事としてこの部活に関わったのが最初なんだ」
笹宮君の話が終わると、今度は藍澤君
「学校案内のパンフレット。その男子モデルが僕だったんだ。ちなみに女子は藤乃ちゃん。写真部はその素材写真も撮ることになっていてね、そこが僕と四人の初出会いになるんだよ」
「へえ・・・」
二人をモデルに、学校案内のパンフレットを作ったことがきっかけ
しかし、当時の藍澤君は色々な方面で歪んでいたらしい
詳しくは話してくれなかったが、とりあえず色々やらかしすぎて、悠真のカメラレンズの一つを壊し、それに怒った笹宮君が藍澤君を殴ったことで、色々変化があったらしい
玲香ちゃんから聞いた噂は確かなものだった・・・?となっていたところで、笹宮君が一つ訂正をしてくれる
笹宮君が殴ったのは藍澤君ではなく・・・藍澤君の後ろの木だそうだ
藍澤君は軽く恐怖を覚える程度で済んだらしい
「まあ、そんな感じでさ・・・色々と歪んだ僕が正しくなるには、この四人といた方がいいんじゃないかって思って、先生に頼み込んで合流したわけ。今後のモデルを対価にね」
こうして、様々な事情を持った五人が集まった
そして今もそれは変わらずに・・・いいや。少しだけ変わったのか
五人は今日から、六人になったのだから
「部活必須だからね、うちの学校・・・大変だよね、羽依里ちゃん。残り半年ぐらいしか活動期間のない部活選べとかさー・・・」
「でも、良かったの「ここ」で。他にもやりたいことあったら、どこでもいいと思うけど。五十里も都合つけて迎えにきてくれるだろうし」
「ううん。ここがいい。病院や、五月からのこともあるし、悠真と一緒にいた方が楽だって理由が大きいけど・・・」
「?」
「悠真が写真を撮る姿を、近くで見ていたいから」
自分でもすんなり出てきたその言葉に、藤乃ちゃんも「そっか」と小さく返事を返す
「じゃあ、新入部員歓迎と私の敗北祝いでアイスだねー!羽依里ちゃんはアイス大丈夫?」
「少し怪しいけど・・・」
アイスを食べるのは久しぶりだ。けど、病院側から私の食事に関してどんな説明を受けているのか私はほとんど知らないのだ
・・・ちゃんと知っておく必要があるから、帰ったら看護師さんに聞いてみよう
悠真の方を見て、食事に関して聞いているか確認してみる
「まあ、バニラなら。できれば少なめ。羽依里は冷たいもの食べるとお腹壊しやすいからなるべく控えてって言われてる」
「じゃあ、悠真の少し貰うぐらいがちょうどいいのかしら?」
「うーむ、ぺピコ一つなら大丈夫だろうさ。半分に分けよう」
「うん」
私は悠真に連れられて、先にコンビニの方へ向かっていく
それを見た笹宮君や藍澤君、絵莉ちゃんも続くようにこちらへ
奢りが確定している藤乃ちゃんの足取りだけが、重かった
「あー、なんでこんな約束しちゃったんだろ。完走するなんて思ってなかったし・・・」
「そこはまあ、白咲さんのおかげかもね。ずっと応援してくれていたし。あ、僕はハーデンダッツね。ロイヤルミルク味でよろしく!」
「なんで最高級アイスを選ぶかなぁ!?人の金だからってー!」
「俺はレデーボーゲンで頼む。業務用な」
「なぜコンビニで大きいアイス買おうとするかな!?今すぐ食べ切れるのかな!?絵莉ちゃん、絵莉様は・・・お優しいですよね?」
「いや、私はゴディーのチョコアイスでよろしく。食べてみたかったんだよ。高いからなかなか手を出せないでしょ?」
「くぅ・・・!ぺピコが一番優しいなんてなぁ・・・・!」
三人ともここぞとばかりにお高いアイスを藤乃ちゃんに注文していく
「まあ、全員藤乃に奢りっぱなしだし。これぐらいはな?」
「これぐらいで済むのかな・・・?」
「・・・多分、いや。絶対に済まないと思う」
四人がそれぞれアイスを選び、藤乃ちゃんに手渡す
「くうう!外で待ってろ!外で!」
「「「「ゴチになりまーす」」」」
「い、いただきます!」
藤乃ちゃんが会計を済ませるまで私たちは駐車場でのんびり待つ
悲痛な叫びと共に藤乃ちゃんが来るのはそう時間がかからなかった
・・
場所を移動して、近くの公園のベンチ
俺たちはそこで藤乃に奢ってもらったアイスを食べていた
「くっ・・・悠真と羽依里ちゃんは仕方ないにしても、三人の分は嫌がらせにスプーンなしにしてもらったのに!なんで揃ってスプーン常備してるんだよ!」
「いや・・・今日のお昼のデザートがプリンで、箸と一緒にスプーン入れて貰えていたから普通に持ってたんだけど・・・」
「俺は前アイスを買った時についていたスプーンを鞄に入れっぱなしにしてたからな」
「僕は絵莉ちゃんにもらったよ、予備の使い捨てスプーン」
俺と羽依里は藤乃たち四人の漫才をぺピコを吸いながら眺める
藤乃はどうやらカップアイス組のスプーンを貰わずにきたらしい。なんとも非道な奴だ
しかし、吹田は昼に使ったスプーンを、尚介は鞄の中に入れていたスプーンを
廉は吹田が持っていた予備のスプーンを手に入れたことで・・・藤乃の目論見は見事に看破されてしまった
そして、藤乃の財布の中身も当然といえば当然だが、かなり薄くなっていた
三人が高いアイスを予想外に買うものだから、藤乃の財布は大損害を受けて・・・まさかの自分の分がないなんて事態になっている
流石にその光景には目も当てられない・・・
「・・・羽依里、これ持っててくれ」
「コンビニ、いくの?」
「ああ」
「わかった。気をつけてね。後、あれも買ってきて一緒に渡してくれる?お金は出すから」
「あれ?ああ、わかった。あれな?」
羽依里に自分のアイスを預けた後、俺は藤乃が好きな漆黒モンブランと「あれ」を一つ買って戻る
「くそおおおおおー・・・」
「ほら、藤乃。これ食べて元気出せよ」
項垂れる藤乃にコンビニの袋を手渡す
その中に入っているものを確認した藤乃は、顔を勢いよく上げて俺を見つめた
「神か!」
「ほら、溶けるから早く食えって・・・」
「でもこのビスケットは・・・?」
「それは羽依里から。羽依里の「あれ」はビスケットで決まりだからな」
「ありがと悠真、羽依里ちゃん!いやぁ・・・ぺピコ組は優しいなぁ・・・いただきます!」
藤乃にやっとアイスが渡ったことで、心置きなくアイスを楽しめる
「悠真、はい」
「ありがとう」
羽依里に預けていたアイスを受け取り、少しだけ溶けて食べやすくなったアイスを食す
そして、六人で他愛ない会話を繰り広げ続けた
「これ、一応歓迎会扱いでいいのかな、羽依里ちゃん」
「賑やかなのは楽しいから、こんな感じなのもいいと思うよ?」
「それは良かった。じゃあ、改めて!」
藤乃の目配せで、全員が言うべき台詞を理解したようで、合図と共に声を出す
「「「「「ようこそ!土岐山高一ヤバイと噂な写真部へ!」」」」」
「これから、お世話になります・・・ってその自己紹介でいいの?」
俺たちの常套句に羽依里が困惑しつつも、こうして写真部は最後の一年で新入部員を一人手に入れた
藤乃が販売冊子作成兼外交担当、吹田が校内交渉打ち合わせ担当
廉がモデル兼外部企画交渉担当、尚介が大道具・加工担当
そして撮影担当の俺。羽依里は俺のサポートがメインとなるだろう
今年もまたまだイベントが目白押し
部活実績作りという忙しい日々もまた、幕を開けたのだ
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