願いを胸に駆ける刹那の夢

代永 並木

第1話

夢を見る

遠い昔の誰かの記憶


「私も一緒に戦う。絶対強くなって貴女の隣に行く!」


夢の主はそう言い放つ


「……何を言っても無駄だよね? 分かった、待ってるよ君がこちらへ来るのを」


相手の少女は諦めたような表情をしてから笑いかける


「約束だからね!」


そうして少女こと勇者が率いる武装集団を見送ると夢の主は張り切って訓練を始めるが……その約束は果たされることは無かった


「嘘……」


数年経ったある日……勇者は戦死した

魔王軍幹部との激戦によって勇者パーティは壊滅、魔法使いのみが生き残るもショックで一線を退いた

夢の主は泣き崩れる


「私は何も出来ない……なんで私には力が無いの!」


感情のままに叫ぶ

強くなって彼女と共に戦いたかった

もう二度と果たせぬ夢……


『起きなさい!』

私は大声に反応して目を覚まし飛び起きる

先輩兵士に起こされる


「早く準備するよ」

「は、はい!」


食事を素早く取り武器や防具を準備して第2防衛線へ向かう

頬に一筋の涙が流れていたことには気づかない


「全員来たか!ここは第2防衛線、第1で防げなかった敵を排除する。そして第1防衛線が崩された際ここは最前線となる。侵略者共を1匹足りとも逃すなよ!」

「「はい!」」


忙しそうに準備をしていると声をかけられる


「あら、貴女第2に居たのね」

「セシ……勇者様何故ここに?」


今代の勇者セシリア

幼馴染で昔は仲が良かったが今はどうも嫌われているのかキツイ言葉をよく言われる


「貴女に忠告をしに来たの」

「忠告?」

「貴女は弱いのだから避難所で待ちなさい。貴女1人居なくても問題ないのだし」

「……私は兵士だから逃げる訳には行かない!弱い私にだってやれることはある」

「……戦場じゃ雑魚は死ぬのよ? 兵士にとって自国の為に戦うのは美徳だけど戦って死ぬ事は美徳じゃないそれはただのエゴ……第1防衛線が崩れたら逃げなさい」

「セシリア〜」


セシリアの仲間が探している


「それじゃまた」


セシリアは立ち去る


「自分が弱い事くらい知ってる……でもそれが戦わない理由にはならないよセシリア」


セシリアが立ち去ってから1時間経った頃大きな音が前方から聞こえる

戦争開始の合図だ

戦いが始まる

爆発音が空気を揺らす


〜〜〜


「私達が親玉……魔王軍No.2トグラを叩く!」

「我々は防衛に集中と?」

「できる限り魔物を引き付けて欲しいわ」

「分かりました」


城壁の上から魔物の大群を観察する


「トグラまでの直線を中心に高位魔法を打ち込むらしい」

「そこを私たちが進む……わかりやすくていい」

「セシリアお前、また突っかかっていたらしいな」

「何?文句ある?」

「正直に言えばいいだろ。戦わないでくれって」

「……あの子がそんなの聞く訳ない……あの子は優しいの」


遠くを見ながら呟く

(彼女は誰かのために戦う……私が居なかろうとそれは変わらない)

大きな音が聞こえる

後ろで待機していた他のメンバーが立ち上がる


「セシリア行くよ」

「えぇ!着いてきなさい」


剣を抜き叫ぶ


「誇り高き兵士達よ!私に続きなさい!誇りを胸に侵略者共薙ぎ払いなさい!」

「オォォォォ!」


兵士たちが叫ぶ

待機していた魔法使いが全員魔法を始める

魔物の大群に複数の高位魔法が打ち込まれる

勇者パーティ4人が突っ込む


「前方三体のミノタウロス来ます」

「邪魔しないで」


剣が光る

一振りで三体を切り伏せる


「敵拠点着きます!」

「その首を寄越しなさい!トグラ」

「来たか!勇者」


トグラは刀を抜き剣を止める

4対1、数で言えば優位だが相手は長きに渡り魔王軍No.2に君臨し幾人もの勇者を殺した存在、勇者殺しのトグラ


「ファイヤーアロー」


魔法使いが無詠唱で魔法を放つ


「温いな」


魔法の矢を切り落とす

セシリアと剣士が左右から攻撃を仕掛ける

刀と鞘で受け止められる

剣士が弾かれ鞘で叩かれて吹き飛ぶ

セシリアが切り合うが片手で防がれる

セシリアとトグラは凄まじい剣戟を行う


「下がって」


セシリアは下がると同時に斬撃を繰り出すがそれよりも大きな斬撃で返される

(ヤバっ)


「ウィンドウォール」


治癒士が風の壁で斬撃を食い止める


「ファイヤーストーム!」


移動していた魔法使いがトグラは炎の渦で閉じ込める


「斬波」

「神聖剣」


剣士と同時に魔法を付与した斬撃を炎の渦目掛けて繰り出す


「この程度か」

「はっ?」

「嘘……」


炎の渦と斬撃が同時にかき消されたと思ったら剣士の腕が剣ごと切り裂かれていた


「回復します!」

「逃げて!」


セシリアは叫び治癒士の元へ駆ける


「遅い」


治癒士は背後から刀を突き立てられる


「えっ……あっ」

「お前!ダークブレイク」


力を込めて全力で振るうが魔力を込めた素手で防がれる

腕に傷がつきトグラは感心する


「ファイヤーアロー」

「音剣」


魔法使いは見えない斬撃に切り裂かれる

セシリアは黒いオーラを纏い戦う


「ほう、やはり闇魔法か勇者らしくないな」

「知るか!」


大剣のように大きな刃を振るう

刀で受けるが少し押されている

トグラは笑う


「歴代最強とは名ばかりではなかったようだな!もっとだもっと来い!」

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