終電逃し。やむなく取った「深夜の散歩」で起きた出来事とは?
Syu.n.
家まで3駅。ちょっと深夜の散歩と行きますか
「終点~。安登山(あとさん)駅~、安登山駅~~」
「本日の終電となりま~~す」
(まずったなぁ・・)
今は深夜1時過ぎ。
普段はあまり行かないが、「社員は原則全員参加!」と、なかば強制された飲み会。
そんなに周囲と話をしない自分ではあるが、久々の飲み会。・・まぁ、素直に、それなりに楽しめた。少なくとも、払った会費分の元は取っただろう。
で、終電を理由に、2次会は避けて帰路についた、までは予定通りだったのだが、
「終電だと安登山止まりだったんだ。茂寄(もより)駅まであと3駅かぁ」
日中なら、普通に何本も電車が通る、家に一番近い茂寄駅。
だが、どうも終電近くになると、そこまで行かない電車もあるらしい。まさに今乗った電車がそれで、この後来る電車は無い。
「みんなみたく、終電とかには慣れてないから、こういうこともあるのね・・」
さて、どうしましょう?
とりあえず改札を出た安登山駅は、そこまで田舎ではなさそうなのでタクシーと言う手もある。・・・が、お金がもったいない。
「3駅と言ったら、距離的に1.5kmくらいか? 2kmはないだろう。・・歩けない距離じゃないな」
道順も、線路沿いに行けばそんなに迷わないだろう。
では、深夜の散歩と行きますか。
歩くことしばし。順調に次の駅、「厄千米(やくせんまい)駅」が見えてきた。
「お、次の次かぁ。行けそうだな」
だがここで、左右に分かれる分岐路に差し掛かった。
左に行けば、だいたい線路と平行にいけそうな道だが、お店などが無く薄暗い路地。
右に行けば、ちょっとした駅前繁華街と言った感じで明るいが、線路からは離れそうな道に見える。
まぁ、スマホがあるので、地図アプリを見ればどっちが家に繋がるかわかるんだけど、せっかくの「散歩」だ。完全に迷うまでは使うまい。
「・・う~ん、この駅で降りたことないし、見物も兼ねて明るい方に行ってみるか」
もし全然違う所に行きそうなら、ここまで戻ればいいし。
厄千米駅の近くは、深夜1時過ぎでも、意外にお店をやっているようだった。
「へ~、結構栄えてるじゃん」
発見発見、とばかりぷち繁華街の一本道を歩くが、ほどなくお店の密集した通りは無くなり、その先は、分岐路の左に負けず劣らずの薄暗い路地。
「・・あっちゃぁ~、ハズレか?」
さて、このまま進むか戻るか、素直に地図アプリで確認するか、どうしましょ。
などと考えていたら、今見えている路地のお店と思われる建物のあかりが、突然ついた。
「え、今から??」
深夜1時過ぎから明かりをつけて営業するお店なので、居酒屋やバーを想定していたのだが、
・・なんと「本屋」、それも「古本屋」だった。
「深夜から営業する古本屋・・・?」
偏見と言われればそれまでだが、古本屋って、朝から開店して、夕方の6時や7時には閉める印象じゃない?何なら、昼から4,5時間だけ開けるお店も珍しくないと思う。
なのに、深夜までやっているならまだまだしも、深夜から開けるなんて・・
(ひょっとしたら、搬入のためだけとかに明かりをつけて、営業はしてないかも?)
とにもかくにも、営業しているのか?お店は開いていて中に人はいるのか?
俄然興味を持って、お店の前まで行った。
「開いている・・よな?」
自動扉ではなく、手で横に開けるタイプのガラス戸。
そのガラス越しに見えるのは、両サイドに多数の古本を陳列した本棚のある通路。
そしてその先に、お会計、カウンターと思われる場所があった。典型的な古本屋の作りだ。
・・・だが、そのカウンターに、店員と思われる人物は見当たらない。
(うわぁ、入りにくい!・・でも、興味はある)
とりあえず、外からガラス越しに本棚のラインナップを見てみる。ぁ~、最近の本もある。
(あ、もう一列あるのか?)
入り口からカウンターまでの直線通路に並行して、どうやらもう一列通路があるようだ。そこにも同じような本棚が、
(いや、本だけじゃない!あれは!?)
俺は、このお店のうすら怖さより、思わぬものを見つけた驚きの方が勝り、店の戸を開けていた!
「いらっしゃいませー!」
古本屋には似合わない、元気な挨拶が聞こえてくる。
どこからと思ったが、なんてことはない。
入り口からは見えにくい左の通路の奥で、店員さんがしゃがんで作業をしていただけだった。
「あ、お客さん、当店初めてですよね?こんな時間にようこそ!」
しかもこの店員さん、俺と同年代くらいだ。
それもあってか、つい気やすい感じで聞いてしまう。
「いえ、びっくりしました。深夜に開けているこんな店があるなんて。・・・しかもラインナップが、凄いですね」
「いやぁ、私の趣味が高じまして。こんな時間に開けているのも、日中は別の仕事をしていることが多いもので」
「え?店長さんなんですか?」
「店長と言うか、私個人でやっている店です」
何と個人事業主さん。と言う事は・・
「では、このレアな商品の数々は、あなたが仕入れたものなんですね!」
「!! わかりますか!?」
「はい! あまりの充実ぶりに、思わずお店に飛び込んでしまいました!」
それから、この個人事業主さんと趣味の話題が弾んだのは、言うまでもないだろう。
・・ついてないと思った「深夜の散歩」。
それが、こんな出会いをくれるのだから、人生はまさにミステリーだ。
終電逃し。やむなく取った「深夜の散歩」で起きた出来事とは? Syu.n. @bunb3
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