唯一無二の剣聖列伝〜いずれ最強に至る元農民の物語〜
名浪福斗
プロローグ 彼女との出会い
アスト千六百年。
多種が暮らし、一つの言語が共通の世界。
剣や魔法を使い、モンスターと争う日々が千六百年続いていた。
この世界には七人の英雄達が、意志を持つ武器や防具、道具を駆使して古より魔王ヤマタイ討伐を目指す。
そして、勇者ジャヌアを筆頭に、魔王ヤマタイをあと一歩のところまで追い詰め魔王の巣窟であるヒノクニへと進軍した。
だが、勇者達のその後を知る者はいない。
突如として消えた英雄達。そして勢いを盛り返した魔王ヤマタイの大号令により、世界は混沌と化す。
それから十五年の月日が流れ世界の七割を魔王とモンスターに支配された時、歴史は再び動き出す。
これは、崩壊に向かう世界の救世主となった少年とその仲間達が歩んだ戦争の物語。
◆◆◆
ザクッ! ぶしゅーっ!
僕が振り下ろした農作業用の鍬がゴブリンの脳天に突き刺さり、断末魔の叫びとともに気持ち悪い液体が飛び出した。
戦いの勝敗は決し、液体は止みゴブリンは灰となる。
木々の葉っぱが擦れる音が心地よく爽やかな風が吹いた。
勝った僕を祝福してくれたけど、僕にこびりつく気持ち悪さは取ってくれない。
周囲を警戒しても他にモンスターはいないか。
高鳴る心臓を落ち着かせようと鍬を下ろして深呼吸した。
「ここも最近モンスターが増えた。ネロ叔父さんも言ってるけど、王都アクアレナも……他の生き残る国への脅威も間近に迫っているんだな。急いで行かなきゃ」
逡巡する暇もなく、麻で出来た簡素な衣服につく液体は取れるだけどとり、僕は目的地へと急ぐ。
村から随分と歩いたかな。もう三時間程は経ったかもしれない。
病に倒れ、今も苦しんでいる育ての叔父さんに元気になってほしくて、痛みを軽減できる薬草を少しでも多く持ち帰らないと。
「生命薬草……確かこの森に、まだあったはずなんだけど」
つい最近来た時に取りすぎてしまったのか?
これ以上深く、長い時間モンスターが蔓延る森に一人で滞在するのは危険だ。
でも、今も苦しむ叔父さんを助けたい。
僕はさらに森の奥へと突き進む。
人の手入れなどされないモンスターの巣窟に僕は入った。
途中で同じようにゴブリン一体と遭遇した。周囲を警戒しても他にモンスターの気配はない。
不意をついて先程同様に脳天から鍬を振り下ろしゴブリンを絶命させた僕は、さらに奥へと進んでいく。
「……あった、でも」
目の前には大きな木があった。
その根本に今回の目当て、傷の回復以外に病による痛みを和らげる生命薬草が生えている。
大きな木の前には縄張りにしているような雰囲気のオークが芝生の上でゴロゴロと寝転んでいた。
鼻ちょうちん? 寝ている?
まだ僕には気づいてないみたいだな。
モンスターとはいえ、相手も生き物。休む時は休みたいんだろう。
「話合いで解決できるなら、そうしたいよ」
ギュッと足元に落ちていた小石を拾うと、ポケットに入れていたハンカチをその場に置き僕はオークの頭目掛けて投げつける。
投げたと同時に僕は迂回して身を隠し、命中したオークは僕が元いた場所を見ていた。
傍の棍棒を手に持ちノシノシと歩いていくオーク。
息をするのも忘れて僕は、唯一のチャンスを待っていた。
「グルァァッ!」
わざと落としたハンカチを見たオークは、倒すべき人間がいると分かりハンカチの周辺棍棒で振り回す。
その腕の動きを見た僕は一目散に生命薬草の元へと駆け寄り、素早く採取して鞄に詰め込んだ。
「グギャッ!?」
「気づいたか」
真正面から戦っても小柄な僕では分が悪い。
木々が密集していて棍棒を振り回しずらい森の中へと僕は駆け抜ける。
ドシンドシンと大きな足音を立てるオーク。
この騒ぎでは他のモンスターにも気づかれるぞ、戦いは避けるべきだ。
左へ、右へ。
わざとらしくオークを混乱させて進路を変える。
大きな体では毎回木々を棍棒で倒して進まなければ僕には追いつかない。
「スタト村には連れてっちゃ面倒だな」
どこかで完全にオークを撒かないと。
回転する僕の足のギアを一段と上げ、トップスピードへ。
一度振り返ると、どんどん見えなくなっていくオーク。
安堵した僕は、他のモンスターへの警戒を完全に怠ってしまった。
全速力で駆け抜けた先に待っていたのは、別のオークだった。
僕の足音に気づいていて、棍棒を持って待ち構えている。
「っ! 叩き潰される!」
片足に無理やり力を込めて地面を蹴り棍棒を避ける僕は、第二の攻撃に備えて着地と同時に足を止めずに距離をとった。
追いかけてくるオークと、目の前のオーク。
棍棒を横薙ぎして僕を襲う。
当たらなくても木々を倒して僕の逃げ道を選べなくしてきた。
「ハッ! ……!」
一度息を吸うと、そこからはしばらく吸えない。
攻撃を避けることに気を取られているけど、それ以外に考えられない。
タタタッ! タタタッ!
二体のオークと、木々が倒される音で僕はこの場に駆けつける騎馬の足音に気がつかなかった。
当然オーク達も、狙いは僕だけにロックオンされていたので、剣を構える甲冑姿の騎士が来るなんて予想していなかっただろう。
「ハアッ!」
ズバンッ
悲鳴が森中に響いた。ガラ空きのオークの背中に剣戟が入ったのだ。
そこで僕も甲冑姿の騎士が現れたことに気がついて、尚も二体に注意しながら息を吸う。
斬られたオークは驚き、後ろに振り向こうとしたところで迫りくる騎士の剣は既に首元に届いていた。
一刀両断。首から上を切り飛ばした騎士はすぐに二体目のオークに気がつく。
森の奥から現れたオークの意識は僕から既に外れていた。
僕は一度身を隠すと、オークが騎士に向かって棍棒を振りかぶったところで地を蹴り駆け、飛んだ。
「グオ!?」
「せいっ!」
グサッ! と僕は鍬をオークの脳天に振り下ろした。突き刺したまま僕は受け身を取り地面へと戻る。
慌ててオークも僕に向けて棍棒を振り下ろそうとするが、甲冑の騎士は既に間を詰めており、そのままオークの首を刎ねていた。
「う、うわあ!」
「君!」
女の人の声? ––––オークがよろめきながら僕の方へと倒れ来る。
立ち上がれてけれども間に合わないと思った時、甲冑の騎士が僕を呼び騎馬で目の前に。
腕を差し出された僕は無我夢中で騎士の後ろ、騎馬へと体を預けてオークから回避した。
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