第37話

「さて、残ったのは奴隷取引に乗じた我が国への襲撃だ。この者達は隣国の第四王子ヤワン殿下の命令で襲撃が行った元騎士達である」


 グラン様の前に連れてこられたのは私が捕まえた扇動者達だ。その後ろでは数名の者が民からの通報により捕らえられた者達。自白も含めた調査書類に目を通す。


 ヤワン王子は自分の地位を高めるべく、我が国を属国にして奴隷生産国にする計画を立てていたようだ。王族が殺され、貴族が纏まっていない隙を突いたのだろう。元騎士達は覚悟の上で作戦を決行したようだ。騒ぎ立てる事無く静かに沙汰を待っている様子。


だが、それではこちらの気が治まらない。


隣国から彼等の家族を連れてきた。もちろんシュルヴェステル陛下の許可を得てはいるが。突然現れた家族に彼等は動揺を隠せないでいる。


「さて、お前達は罪なきわが国民を攫い、奴隷に陥れようとした。許される事ではないだろう。マルタナヤールでは罪を償うために罪人は奴隷になるのだろう?残念ながら我が国には奴隷制度は無い。本来ならこの場でお前たちは処刑だ。だがな、それでは国民が納得せんのだ。娘が奴隷にされ、好まぬ相手に好きなように嬲られる。許せる親は誰一人おらん」


 グラン様はそう話すとこの先が分かったのか騎士達はガタガタと震え、床に額を付けて謝罪し、懇願し始める。


「自分達の目でしっかりと罪を自覚する事だ」


グラン様はそう言うと、後ろの家族達の衣服を魔法で切り裂いた。父や母だけではない。姉や妹、弟。妻や子など年端のいかぬ者までも。服を斬られた家族たちの悲鳴があがる。


「この者達を中央広場へ。罪状も張り出せ。扇動者達に家族が見えるようにな。こればかりは手を抜いてはならん!一週間後に広場にて全ての者の処刑を行う。恨むならヤワン王子を恨め」


助けてと懇願する者や罵り、恨みを言う声が聞こえる。そうして彼等は引きずられながら中央広場へと運ばれていった。


「……陛下、お疲れ様でした。少し休まれてはいかがでしょうか」


流石に宰相も顔色は悪い。それもそうだ。後味が悪すぎる。


「そうだな。少し早いが休ませてもらう。あぁ、その前にカインに最後に会っておく」


「そうですな。婚約者候補でしたな。彼は侯爵に最後まで抵抗していたようですし、是非とも情けを。私からもお願い致します」


「そうか、考えておく」


 謁見の間を出るグラン様に宰相は臣下の礼を執った。グラン様と私はそのままカイン様が居る貴族牢へ歩いて向かっていると、グラン様が声を掛ける。


「チュイン、居るのだろう?」


「……流石は陛下」


私達の歩きに半歩下がりながら付いて歩く零師団長のチュイン。


「今回は零師団にも頑張って貰った。褒美は何がいい?」


「では、クレア様との手合わせを」


「お前たちまでもか」


グラン様がフッと笑う。


「あいつらも脳筋ばかりですので」


「シュルヴェステル陛下にはちゃんと送り届けたか?」


「えぇ。贈り物をとても気に入っておられた様子。すぐにヤワン王子を切り捨てる事にしたようです。数日後には彼はこちらに到着するでしょう」


 チュインに託した影の者。尋問という名の拷問に耐えたであろうマルタナヤールの影は首だけにはならなかったようだが手足の無い状態でシュルヴェステル陛下の元へと送られた。どうやら彼はかなりの精鋭だったようだ。そんな彼がこのような状態で送られてきたのだ。


脅しにはなっただろう。


チュインは話し終わるとまた零師団へと消えるように戻っていった。


「彼と面会するわ。ここを開けて頂戴」


貴族牢の前で騎士にそう言うと、騎士は止めに入る。


「陛下の御身に何かあれば困ります。どうかお止め下さい」


「では、貴方はここにいて。少し話をするだけだから」


「承知致しました。何かあればすぐに呼んでください」


騎士はそう言いながら扉を開ける。


「……クレア陛下」


 ベッドで寝転んでいた彼はすぐに立ち上がり、礼を執る。


「座って頂戴」


私は小さな椅子に座り、彼はベッドに腰かけた。


「最後に貴方に会うためにここに来たの。何故、こうなったのかしら」


「……父を止める事が出来ず申し訳ありません。止められなかった罪、しっかりと償います」


「……そう。とても残念だわ。貴方と踊るダンスは素敵だったのよ?女王である前に一人の乙女として心浮かれるダンスだった。もっと踊っていたかった。プレゼントだってとても嬉しかった。無理をしたのでしょう?」


「クレア様には敵いませんね」


 カイン様は困りながらも微笑んでいるけれど、目からは涙が零れていく。


「いつもならフェルトが行うのだけれど。最後に私がするわ」


 そう言って彼の胸へ手を当てて呪文を唱えていく。すると胸元に魔法陣がじわりと浮かび上がった。


「地下に入ると魔力を吸い取られるわ。生きては戻れないでしょう。さようなら、カイン様」


 私は彼の頬にキスをし、貴族牢をそっと後にする。こうして彼等の処罰を終えて私は自室に戻った。

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