第36話
「陛下、証拠が揃いました。どうされますか?」
「……そうね。今回は謁見の間で罪状を述べて刑の執行をするわ」
裁判の間では被害者や加害者がいる時、貴族同士で争っている時に使用されるけれど、今回は隣国も絡んでいるので非公開にしなければならない部分も多くあり、捕縛人数も多いので謁見の間で行う事になった。
貴族間の裁判では色々と手続きが必要だけれど、行わない場合は手順を踏む事がないので私の裁量に任される。つまり私のさじ加減一つで決まるのだ。まぁ、私が立ち合う裁判でも同じようなものだけれど。
私は宰相と謁見の間に向かう。
謁見の間には今回の事件に関わった全ての人が猿轡と魔法錠をして膝をついている状態で待っていた。とても物々しい雰囲気の中、宰相が罪状の確認をするために最初の六名を前に出す。
「この者達は国境に一番近い場所、第一取引場所で取引を行った者達です。リーダー格の者と奴隷を馬車に詰め込む者、護衛です。リーダー格の者はファルム子爵の執事より指示を受け取引書に子爵のサインがある物をもっておりました」
「ではリーダー格の者は地下に十年の強制奪取。その他の者は五年の強制奪取。魔力の無い者は炭鉱へ送ること」
そうして五カ所で取引に関わった自国側の者達の刑を決めた。次に隣国側の取引に関わった者が前に呼び出された。
「彼等は隣国のヴィロ伯爵の指示により奴隷の売買を行っていました。隣国では奴隷売買は違法ではありませんが、我が国との奴隷の売買は禁止されており違法となっています。そして隣国のシュルヴェステル陛下より書状が来ております」
そう言うと、宰相は書状を読み上げた。奴隷売買に関わった者は奴隷落ちにして引き取りたい、伯爵は重い罰金刑にする、賠償金をこちらへ送るといったものだった。
まぁ、妥当なものよね。
「私もその刑の重さは当然だと考える。では奴隷売買の取引を行った者には奴隷の印を。フェルト」
私はそう言うと、フェルトは一礼した後、その場で奴隷印を刻んでいく。全員刻んだ後、隣国へ向かう馬車に乗せられるのだが、まだ終わった訳ではない。奴隷となった者達は騎士達に連れられて謁見の間を後にする。
「さて、奴隷の取引の現場にいた者達の刑は決まった。奴隷を持ち込み、労働力として働かせていたサンダー侯爵、及びファルム子爵は前へ出よ」
宰相の言葉に騎士達は前に出るように侯爵達の腕を取り、押し出すように前に座らせた。牢へ入れられてから毎日の尋問が堪えたのだろうか。二人とも窶れて苦しい表情をしている。二家の執事も加担したため前列に座らされた。家族達は二人の後ろに並び、俯いている。
その中には勿論彼の姿もあった。
「違法奴隷の持ち込み、強制労働、城への偽造書類、役人の買収、隣国との違法な取引も調べがついている。反論はあるか?」
「「……」」
二人とも沈黙を守っている。
「異論はないのだな」
宰相は尋ねるけれど二人とも口を開くことはない様子。
「異論はないようね。では、家族全てを地下へ。死ぬまで魔力を国に捧げよ」
私がそう言うと、後ろにいた侯爵夫人はガタガタと震えて倒れてしまった。他の家族達も震えて寄生を上げたり、嗚咽を漏らしたりしている人も出始めた。騒がしくなってきたため、彼等を牢へと下がらせる。
連れていかれる様子を見ていると、彼は私に軽く礼をしてからこの場を後にした。
その姿に胸を締め付けられる。
最初から分かっていたとはいえ、やるせない思いに心が砕かれる。
――クレア、儂が代わろう。少し休め。
私はグラン様の言う通りに交代する。
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