第29話
「国王陛下が入場されます!」
案内の者の言葉に一気に会場が静まり返る。貴族達の視線が一気に私に向かってきた。様々な視線が交差するのを無視しながらダンスホールの中央へと歩いていく。婚約者候補者達は中央で既に私を待っている状態。
皆私と視線が合うとフッと微笑みを浮かべている。
「舞踏会を開催できた事を嬉しく思う。この度、私のクレア・ラグノアの王配となる者候補者達のお披露目の場でもある。彼らのうち一人が我が王配となる。王配とともに国の繁栄に尽力することを誓う。王家を含む沢山の貴族を巻き込んだ悲しい出来事が起こったが、貴族同士の分裂がないよう今日の舞踏会を皆の交流を深める場としてほしい」
私がそう言うと同時に拍手が起こる。そして舞踏会を開催する合図となる音楽が流れた。
ファーストダンスは勿論私。
緊張しながらも一番爵位の高い婚約者候補であるアーサー様のエスコートでダンスが始まった。
「クレア陛下、今日はまた一段と美しい。全ての令嬢が雑草に見えてしまいますね」
「ふふっ。アーサー様も素敵ですわ」
クルクルとターンをした時に令嬢達の黄色い声が聞こえてくる。彼は令嬢達からの熱い視線にも微笑みながら踊る。
「大変ね。このダンスが終われば令嬢達に囲まれてしまうでしょうね」
「こればかりは仕方がない。私を求める花達は美しい者ばかりで困ってしまいます」
そう軽く話をした後、一曲目のダンスが終わる。婚約者候補が五人という事もあり、一曲がかなり短い曲になっている。
アーサー様と礼を終えた後、次に中央来たのはアスター様だ。彼は正装である白の騎士服を着ていて、長身で見目麗しいために良い意味で目立っている。
「アスター様、宜しくお願いします」
「クレア陛下、とても美しくてこのまま攫ってしまいたい位です。私では難しいかもしれませんが」
「ふふっ。面白い事を言うのね。次回のお茶会も楽しみにしているのよ?」
「嬉しい限りです。お茶会と言わずまた騎士団へ来てください。是非手合せをお願いしたい」
「考えておくわ」
アスター様とのダンスは軽快な音楽に合わせた軽やかなステップ。リードもしっかりしていて頼れるダンスパートナーね。
――クレア、奴は脳筋ではないのか?
……やはりそう思いましたか?嘘であって欲しい、ですね。
私はアスター様と礼をするとすぐに手を取られる。
「俺ともちろん踊ってくれるよな?」
グッと手を引かれて密着するような形でダンスが始まった。情熱的なダンスをするのはベイカー。
「ベイカー、ダンスが出来たのね?」
「俺だって一応貴族の端くれではあるからな。あぁ、クソッ。アスターが正装で来るとは思わなかったな。俺も魔導士の正装でくれば良かった。動きにくい」
そう言いながらもベイカーは難易度の高いステップを軽々とこなしている。むしろ私がベイカーに付いていくのが大変なくらい。
「魔導士の正装って。騎士服にローブじゃない」
「あぁ。動きやすいし皆寄ってこないだろう?」
「えぇ、そうね。変な奴だと見られる事は間違いないわっ」
「違いない」
ククッと笑いながらベイカーとのダンスを終える。
次に礼をしてからそっと手を取ったのはローガン様。柔らかなワルツの曲に合わせて軽やかに踊り始める。
「ベイカーとのダンスは楽しかったですか?」
「まぁ、ベイカーは昔からの幼馴染だから踊り慣れてはいるわ」
そう言うと、ローガン様はグッと抱き寄せるように私に近づく。
「妬けてしまいます。私はもっと貴女の事が知りたい。今度はゆっくり二人で星降る夜にニアーナの丘でダンスをしませんか?」
「素敵なお誘いに心が痺れてしまいそうだわ」
ニアーナの丘でダンスをしましょうと誘うのは今、令嬢達の中で流行っているプロポーズの言葉なのだとか。ニアーナの丘には白い小さな花が一面に咲き誇り幻想的な風景で有名な場所なの。
月夜に照らされた花の中でプロポーズなんて誰もが憧れる情景。本当に彼は望んでくれていると嬉しい限りね。
「もう時間、ですね。寂しい限りです」
ローガン様は少し寂し気な笑みを浮かべて次の候補者と交代する。
カイン様はグッと私の手を取り、密着する形でダンスを始めた。先ほどとは違って情熱的な音楽が流される。舞踏会では珍しい隣国のダンス。タンゴのようなステップを踏む。
「珍しい曲を選ばれたのですね」
「あぁ。陛下に私の情熱を少しでも伝えたいと思い、この曲にしました。流石クレア様。隣国のダンスもお手の物だ」
「そんなことはないわ。今もギリギリだもの。カイン様のリードでもごまかせているだけよ?」
令嬢達がターン毎に黄色い声をあげている。カイン様の情熱的なステップに令嬢達も虜になっている様子。
息つく間も無いほどの細やかなステップに話す暇がないのは残念だわ。そうしてカイン様のダンスが終わった後、ようやく貴族達がファーストダンスを踊り始める。
私はというと、踊る人達の邪魔をしないようにホール全体が見渡せる場所へ移動し、席に着く。
王族専用の特別席ね。
私の後ろには護衛のアーロンとマヤ、ロダが控えている。席に着いてゆっくり観覧といきたい所だけれど、そうはいかない。ここぞとばかりに大臣や貴族達が挨拶に訪れる。こういう時に親友の令嬢の一人でもいれば違ったと思うわ。
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