第27話
「クレア陛下、間がかなり空いてしまいましたが、婚約者候補とお茶会を再開せねばなりません」
「うぅ、ロダ。そうね、次は誰だったかしら?」
「アーサー・テーラー公爵子息であります。場所はいかがしますか?」
「あぁ、彼ね。そうね、王宮のサロンでいいわ」
「畏まりました。では明日の午後サロンで準備を致します」
色々あって忘れていたわ。それでも婚約者選びは待ってくれそうにない。面倒だと思いながら執務を続ける。
そういえば、今年の麦や野菜は豊作だと大臣達が言っていたわ。
彼等はしっかりと役に立っているようで安心したわ。あれから反王族派の貴族は一気に衰え、中立派や王族派が増えた。そして収穫量の増加に税収が上がり貴族たちは満足しているようだ。
領民達は私を支持する人が増えたとかどうとか。むしろ魔力持ちの犯罪者は結界に取り込むのがいいとさえ意見する者も増えているらしい。人とは恐ろしいものね。
翌日の午後、私はサロンに向かうと、待っているはずの彼は居なかった。
「マヤ、アーサー様はどうしたのかしら?」
「……欠席の連絡は受けておりません」
「そう」
私はお茶を飲み、少しばかり待つことにした。
……。
……。
「クレア陛下、そろそろお時間となります」
「えぇ、分かったわ」
マヤは気を使って少し早めに切り上げるように声を掛けた。私は席を立ち、歩き始めた時、アーサー様は微笑みながらサロンに入ってきた。
「遅くなって申し訳ない。綺麗な花達が私の手を離さなくて大変でした」
「そう、それは素敵な一時でしたわね。では時間ですので私は執務に戻ります」
「執務室までエスコートさせて下さい」
アーサー様はそう言うと、私の腰に腕を回し、手を添えて密着するようにエスコートをする。その距離に私は彼からする残り香に不快感を覚えたのだが、あえて口に出すことはしない。
彼はどこまで図々しいのかしら。
廊下を歩いていると令嬢にすれ違う度に微笑む彼。気が多い方なのね。
私の分かりにくい態度にもかかわらず、敏感に読み取った護衛騎から緊張感が伝わってくる。
「アーサー様。ではこれで」
「クレア陛下、本日は申し訳なかった。次回を楽しみにしております」
アーサー様はそう言って私の手にキスを一つ落として帰っていった。
――あいつは脱落だな。婚姻してから妾を囲う事は仕方がないのだが、候補である内からあれでは先が思いやられる。奴は何を考えておるのだ?
全くですわ。所詮政略結婚という事でしょうか。
図書室でも堂々と逢瀬をしている所をみると、周りに私が許していると思われているのかしら。
口に出して不満を言う事はしないが、心の中では盛大に愚痴を言ってしまうのは仕方がない。
「クレア陛下、明日はローガン・ベイリー様との面会です。場所はサロンで構わないですか?」
「えぇ。それでお願い」
私はまた身体強化で執務に取り組む。折角執務が早めに終わっていたのにカミーロ公爵の件で執務が滞り、身体強化を使っても夜遅くまで仕事をする羽目になったのよね。そしてようやく夕食までに終わらせる目途も立った所。
イクセルもミカルも休日返上で仕事に取り組んでいて申し訳ないと思っているわ。新しく入ったマークもラウロも今は執務に慣れている最中なので無理はさせられないのよね。
そういえば、マレナ嬢はどうなったかと言うと、名前はマリルと変え、侍女研修を受けている最中なの。侍女長から専属侍女の合格が出せるまであと少しにはなっているらしい。
兄のフィトはエリオスと名前を変えた。護衛騎士には残念ながら実力は足りなかったようだ。けれど、ライからの指導を受けているらしく従者として私に付くようだ。彼はもう少し時間が掛かると言っていたわ。みっちり仕込みたいのだとか。
マリルとエリオスも真面目に仕事を覚えていて感謝の言葉を口にすれど、不満を漏らす事はないらしい。
ソフマン子爵と夫人はというと、名前を変えて平民になり、王都を出て二つの村の向こうにある街に貴族としてはとても小さな家を用意し、移ってもらった。
マリルとエリオスの二人が陛下付きの侍女・従者のため給料はいい。侍女一人とコックは楽に雇えるようだ。
ソフマン子爵夫婦が牢に入った時、夫人を医者に診てもらい薬を処方してもらった。どうやらそれがとても効いたようで夫人の病気は回復し、夫婦慎ましやかに暮らしているようだ。マリルもエリオスもとても喜んでいた。
勿論マリル達は姿変えのネックレスが付けられているので誰もソフマン一家だとは思っていないようだ。
「クレア陛下、お茶の時間となりました。サロンに向かいましょう」
私は従者と共にサロンへと向かう。
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