第4話

「第五騎士団団長をつまみ出せ。話はそれからだ」


 執務室の外にいた護衛騎士は2人がかりで嫌がる団長を引きずるように部屋を出て行った。


「く、クレア様。お鎮り下さい。私達が呼ばれた理由は何なのでしょうか」


 青い顔をした第一騎士団団長が緊張した面持ちで口を開く。グラン様はようやく覇気と魔力を抑えて話をする。先ほどとは打って変わり、団長達は騎士の礼を執り、微動だにしない。


「よく集まってくれた。1人欠けたが、其方達の忠誠心を嬉しく思う。皆も知っている通り、父も母も兄も皆殺された。騎士団の者達は守りきれず悔しい思いをさせたな。現在、国王の影響力低下により、貴族達の良からぬ動きが表面化しつつある。


これより国の安定へ向けて私は舵を切る。その為には皆の忠誠心が必要なのだ。今回、零師団以外の団長達を召集した理由なのだが、数時間前に張った結界の事である。私に害をなす者の排除だ。


この結界により、身体の重い者は私の命を狙う者だ。先程の第五騎士団団長のように身体が重くなる者は私を殺そうとする者。至急王城内で動けずにいる者を捕らえ、背後を洗え。手を抜けば我が国は他国に攻め入られる隙を作ることになるだろう。手を抜くな」


 団長達は私の話を聞くと驚いていたようだが、各自思う所があったようでさっきまでの青かった顔は嘘のように引き締まった表情をしている。そこから団長達は会議室で城内警備や報告について話し合ってから各騎士団へと戻っていった。


 私も執務室へ移動し、ようやく静かになったかと思っていたが、今度は宰相が部屋へと入ってきた。


「クレア様、新たな書類をお持ちしました」


ふと宰相を見るといつもと変わらない様子。


「さ、宰相。身体は、お、重くないの?」


「いえ?わざわざ私の体調を心配して下さるとは嬉しい限りです。むしろ軽い位ですよ」


宰相はニコニコと話をしている。宰相は私を害するというより利用しようとしているのかしら?


「宰相っ、明日の午後は誰と会うのかしらっ?」


「陛下、明日は午後からカイン・サンダーと会う事になっております。場所は中庭で宜しいでしょうか?」


「分かったわ。中庭で準備をお願い。あ、あとっ、侍女長を呼んでちょうだいっ。じ、侍女をクビにしたのっ」


「承知致しました。陛下、ここへ来る途中、蹲る者や体調不良を起こしている者を見かけました。何か城で流行病でも発生しはじめているのですかな?」


宰相は困惑した表情で聞いてきた。


「あぁ、その件は大丈夫よっ。さ、宰相には話しておくわ。城内で動けなくなった者は私の命を狙う者達なの。今頃城内で動けなくなった貴族達は大慌てねっ」


「ということは陛下に付いていた侍女は陛下を殺そうとしたのですか!?」


「えぇ。今、騎士団で取り調べをしてもらっているわっ」


「左様ですか。陛下の命を狙う者はまだまだ多い。……承知しました。すぐに侍女長を呼んで参りましょう。これから騎士団長の話を聞かねばなりません。城の警備と大臣達との話し合いも早急に行います」


「えぇ、お願いねっ」


 宰相の行動の速さに少しあっけに取られたけれど、警備の見直しを早急にしなければいけないのは確かだ。ただ、宰相も何か腹の中に飼っていそうなので引き続き注意をしなければならない。


 暫くして侍女長が執務室へと入ってきた。私は新たな侍女を手配する事を頼むと侍女長はすぐに連れてくると言っていたわ。これで侍女問題は一安心ね。侍女長は私を心配しながら後進育成に務めている。


詳しく言うと、私の乳母だった人の姉でもあるの。元貴族令嬢だった二人は没落寸前で売られる前だったらしい。母が二人を王妃付きの侍女として召し抱え、それ以来王家に尽くしてくれている。


 私の乳母は三年ほど前に病気で亡くなってしまったけれど、姉は侍女長になっても変わらず王家に仕えている。


その後、執務を少しこなした後、部屋へと戻った。夜も随分遅くなってしまったわ。





「侍女長からの指示で今日から陛下付き筆頭侍女になりましたマヤです。宜しくお願い致します」


「マヤ、宜しく」


 部屋の前で新しい侍女が私を待ってくれていたようだ。王女や王太子には侍女や侍従が一人付くけれど、陛下になれば侍女や侍従は五人程となるらしい。交代で仕事をするのだとか。


これは護衛騎士のアーロンも同じ。近衛騎士から選ばれた超エリート。マヤはテキパキと寝る準備をしてくれる。今度の侍女達はしっかりとしているし、大丈夫かもしれないわ。


――あぁ、だが油断してはならんぞ?

 そうですね。


グラン様の言う通りだわ。もっと気を引き締めていかないといけないわね。私は少し反省しながらベッドへと入った。





 翌日も早朝から食事を執務室で取りながら一人執務に励む。昼前だっただろうか、扉をノックする音が聞こえた。


「入って」


 私は許可を出すと、宰相と第一騎士団団長が部屋へと入ってきて礼をする。私は片手を上げて答える。


「クレア陛下、昨日の城内で動けなくなった者達の報告に来ました」


「そ、そう。それで?」


団長が報告する。


「結界は直接害を与える者の身体が動けなくなる程の重さを感じ、害を与えずともそれに関与する者も身体が重く感じるようになっておりました。城内で動けなかった者は五名。身体が重くなった者は八名となっております。


現在動けなくなった者は治療と称して隔離しており、身体が重くなった者は体調不良と言う事で休ませております。どうされますか?」


 私は報告を受けながら宰相から一枚の資料を手渡される。そこには動けなくなった者の名前、所属、家名などが細かく記載されてあった。


――ふむ。どうみる?

 そうですね、一見所属はバラバラな感じですが、派閥が偏っています。侍女と近衛騎士二人と接する機会のある者達が身体の重い者が多い。やはり派閥の大元であるカミーロ公爵の息の掛った者なのでしょう。


けれど不思議な事に派閥の者が大勢いる中でカミーロ公爵家の者は一人もいない。トカゲのしっぽ切りをするつもりなのだと思いますわ。


――そうだな。姑息な事をしておる。


「さ、宰相。ではこのリストにある者達の配置換えを。まだ犯罪を起こしていないのだから罪には問えないわっ。そして当面監視をして頂戴。誰かと連絡を取るようなら要注意ねっ。それと団長、城の警備はどう変わったのかしら?」


「城の警備は近衛騎士を中心に配置換えを行いました。前陛下が亡くなられて以降特に厳しく人の出入りを制限しておりましたが、今回の件でより信頼の置けるものを配置するようにしております」


「そう、大変だったわね。城内だけでもこれで落ち着くといいわ」


そこから配備の説明を聞いた後、私はまた執務を行う。猫の手も借りたいほど忙しい。


「クレア陛下、婚約者候補者との時間です」


従者がそう伝えてくれるまで時間を忘れて執務をしていた。中庭だっけ。



私は急いで中庭に向かった。

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