第3話

 翌日、私は前々から兄の補佐をすべく執務を行ってはいたが、グラン様の指導の元、書類に目を通していた。100年以上違うのにやっていた事は今とそう変わらないそう。はぁ、こうして言われると気付く。グラン様が驚くほど国をもっと繁栄させないといけないわ。


「陛下、この街道整備計画はどうされますかな」


 宰相が持ってきた書類はファルム子爵家からの申請書だった。宰相が直に持ってきたのだ。何かあるのだろうとしっかりと目を通す。だが見れば見るほどふざけた書類だ。


「変ね。なぜ他の領地に比べて三分の一程なのかしらっ?」


 私は書類を返すと、宰相は書類に再度目を通して答える。


「陛下、安くて良いではありませんか。それにこれは隣国からの労働者を迎えると書いております。隣国では本国と比べ労働力は安い。費用を抑えるべき所が分かっておるではありませんか」 


宰相は何を考えているのかしら。


労働者と言ってぼやかしているけれど奴隷じゃない。


 この国では奴隷制は無く、奴隷も禁止、勿論売買も禁止しているはずなのに。


――これを機に奴隷をこの国に入れて奴隷制度に違和感を無くす為であろう。ちっ、宰相も一枚噛んでいるのかも知れんな。


「さっ、宰相、この、……書類は却下だ。我が国に奴隷を持ち込む事は許さぬ」


宰相は一瞬だが目が泳ぐ。


「宰相、もう少しマシだと期待しておったが、幻滅だな。次は無いと思え」


私の有無を言わさない様子を見て何か気づいたのか青い顔をして謝罪し、書類の再考をさせますと執務室から出て行った。


――クレアを信頼する者、守る者を早急に探さねばな。既に城内は思惑が絡み合っておる。王族殺しの犯人が分からぬ今、いつ殺されるかもわからん。一時的に城に魔法を掛ける事にするか。一時的とはいえ、相手が見つかればお前の命を狙う機会も減るであろう。


そうですね。まだ寝首を掻かれる訳にはいきませんもの。


「アーロン、午後からの王配候補者の面会は中庭でベイカーを呼んで頂戴」


「かしこまりました」


アーロンが部屋から出て行った後、私は口を開く。


「ライ、いるかしら?」


「はい。ここに」


どこからともなく現れたのは私の影。


「ファルム子爵家を洗って頂戴」


「承知致しました」


ライはそう告げるとすぐに気配が消える。


私はふぅ、とため息を一つ吐いた。







「陛下、執務は大丈夫か?顔色が優れないようだ」


「執務はいつもの事だから大丈夫よ」


「なら何か悩み事か?相談にのるぞ?」


午後の婚約者候補とのお茶会にはベイカーが呼ばれ、席に着いた。


侍女はお茶を淹れた後、私の横に立っていたが、ベイカーと話をしたいので声の届かない程度の距離まで下がらせた。


「早速で悪いのだけど、この城全体に結界を張って欲しいのよ。結界条件は王族の身体に危害を加えようとする者よ」


ベイカーは腕組みをして考える。


「結界を張るのは良いが、維持するのはどうするんだ?クレアの魔力で結界を張ったとしても結界は魔力の補充をしなければ二日保つかどうかだ。それに条件に合った者が居た時、どうするかだ」


そう言いつつ、ベイカーは既に頭の中で陣を考えている様子。


「そ、その辺も考えてあるわっ。結界は一時的な物にしようかと思ったのだけれど、今後の事も考えて結界内の人々から少しずつ魔力を吸い取るの。


城には沢山の人が常にいるし、条件は少ないから結界の維持分の魔力を吸い取られても分からないわ。あと条件に合った者は身体を重くして動かないようにして欲しいの。


害意がある者も動けないから分かりやすいと思うのっ。後は動けない人を見つけていけばいいだけだわっ」


ベイカーは少し考えた後、ニコリと笑った。


「分かった。なら、今から張るのがいいな。丁度中庭だしな。結界を張る時が一番魔力を使うのは知っているよな?陛下の魔力を魔法陣へ一緒に注いでくれると助かる」


「そうねっ、全力で頑張るわっ」


 ベイカーは徐に立ち上がり、魔法陣を描ける程の広さを取って唱詠を始めた。


すると足元に光魔法陣が浮かび上がると結界が同時に大きく広がり始める。私はベイカーの腕にそっと触れ、魔力を流す。


足元の陣は大きく広がりドーム状の結界が城を包んでいく。


「流石俺。一回目で成功だ。魔力も相当消費したし、今日の仕事は切り上げて帰る。結果は後で教えてくれると助かる、とその前にあいつだな」



 下がらせた侍女が不自然に膝を突いている姿が見える。早速効果が表れたようだ。


ベイカーはすぐに魔法で侍女を拘束し、持ち物を探るとポケットから小さな空になったガラスの小瓶が出てきた。


「……シャロン、どういう事かしらっ?」


 私達の様子を見ていた護衛騎士達がすぐに駆け寄ってくたわ。


「陛下、ご無事でしょうか!」


「え、ええ。ぶ、無事よ。アーロン、すぐにシャロンを牢へ。ま、魔導士を呼び裏を洗ってちょうだいっ。そ、それから、い、今から第一から十までの各騎士団長、副団長、魔導士筆頭を私の第一会議室へ召集して頂戴っ」


「後は任せた。俺は疲れたから今日は家へ帰るかな。これから忙しくなりそうだし、休めるうちに休まないとな」


「ベイカーまた明日ねっ」


ベイカーは一仕事したとばかりに腕を回しながらそのまま中庭を出て行ったわ。


 アーロンは礼をした後、零師団以外の団長達を呼び出し、彼等は第一会議室へ集められた。




 会議室は慌ただしく混み合っている。どうやら全員欠けずに居るわ。一先ず安心ね。


「陛下、我々が呼び出されたという事は緊急事態でしょうか?」


騒めきの中、一人の団長が声を上げた。その声に同調するように団長達は口を閉じ、私に視線を向けている。


「と、突然呼び出した理由をっ、説明するわっ。そ、その前に、この、中に身体が重い人はいるかしらっ?」


 彼等は顔を見合わせてお互いの様子を確認しあっていると、第五騎士団団長が手を挙げた。他の団長達は不思議そうに見ている。確かによく見てみると身体が重い事に耐えている様子だ。


鍛えているからこそここまでくるだけの体力はあったのだろう。


「あ、貴方は第五騎士団団長だったわねっ。では、貴方は下がりなさいっ。あ、明日からは副団長を団長に。貴方は一般階級に降格よ」


 私がそう告げると第五騎士団団長は突然大声で怒鳴り始める。大声で私を脅すつもりのようだわ。


――クレア、ワシが代わろう。


 私はグラン様と交代すると、グラン様は覇気と魔力を団長達に向けて発する。流石は団長クラス。自分達に向けられる皇帝の覇気と魔力に顔を青くし、片膝をつく。


第五騎士団団長はカタカタと震え、黙ってしまったわ。

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