微かの鈴音

 これといった特徴もない、観光地からも外れた山寺を訪れる参拝客の目的は、微かな鈴の音である。本堂裏手の禁足地にある小さな祠の土中に、即身仏になる事を誓願し一人の僧が入定した。そこに挿し込まれている細い竹筒から、微かに鈴の音が響いてくるのだ。

 無論、近寄ることはできないので、拝殿のモニターにライブカメラで配信しているのを、人々は神妙な面持ちで聴くのである。

 入定は天明年間との記録が残っており、実に230年以上の時を、僧は土中にこもってひたすらその時を待ち続けているのであった。

 伝承によれば、僧はよく精進潔斎し、十穀断ち、水銀の摂取などを行ってその日を迎え土中に下ろされた。その時、一匹の蟻が僧の唇を這い、僧はそれを喰ったという。

 私は、僧が即身仏になれない理由は、その蟻だと思うのだ。僧は最後に禁を犯した。その業のため蟻から絶え間ない蜜の供給を受けているのだと。

 鈴は微かに鳴っている。

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