竜安禅師取材メモ 2/15 慣性

 開門前。庭を一望する広縁に通された私は、愕然とした。

「禅師。石が一つもありません!」

 疑天竜安禅師は私に落ち着いて座るように促し、自身も柔和な表情で座禅を組んだ。

 すると、雲を突き破ってたくさんの鮒のようなモノが落ちてきた。

 それらは庭の白砂に触れた瞬間、そのまま静止した。また、白砂には水面のような波紋も生じて、それはだんだん広がると油塀に到達したところで静止した。

 目の前には石庭が出来上がっていた。

「あれは何ですか? なぜ静止したのですか? なぜ波紋が?」

 禅師は、柔和な顔で座禅を解くと、

「言葉でお伝えすることはできません」

 と、私を庭へ向かって突き飛ばした。「あっ」という間もなく白砂の飛沫が上がり、私は… 庭に突き刺さるような姿で静止していた。

 気がつくと、新幹線は品川を出たところだった。「またか」と頭を掻くと、呵々という笑い声がして、髪の間から白砂が零れ落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る