ぐちゃぐちゃ

なつめオオカミ

第1話 ぐちゃぐちゃ

私には3歳になる息子がいる。

目に入れても痛く無いほどに可愛がってきた息子には一つの癖があった。

実家に帰省した時、雨が降り翌日には田んぼの畦道に大きな水たまりができたり泥がかたまっていたりした。

息子は長靴を履いてそこに入りジャブジャブと遊んでいたのだが、泥を踏み遊んでいる時だけ「ぐちゃぐちゃ」と楽しそうに笑う。水たまりにいる時はバシャバシャなのに泥にいる時はぐちゃぐちゃ。

せめてぐちょぐちょだろうとか思っていたが、泥に戯れている姿が可愛かったので特に正すことなくそのままにしていた。

息子が高校に入った時にふとおもいだしたのは、久々に実家へ帰省して雨が降ったからだろうか?


「そう言えば子供の時、泥を踏むことをぐちょぐちょじゃなくて、ぐちゃぐちゃっていてったよなお前」

スルッと口に出ていた。

妻も懐かしそうにそうだったわねぇと言った。

だが、息子は青ざめていた。

思い出したく無い何かを思い出した様に。

そして露骨に話題を変えた。


事実を聞けたのは東京にある家に戻ってからだ。


「いや、あそこで言うのはまずいと思って…なんか俺あそこに行くと夢を見るんだ。いっつも同じ内容なんだけど、ガリガリに痩せ細った人たちが腹減ったって言いながら泥を口に入れるんだ。勿論食べれんから吐き出したりするんだけど、それでも何かを腹に収めたくてしょうがないみたいにぐちゃぐちゃってずっと泥を食べているんだ…」

ゾッとした。幼い頃からそんな夢を見ていたなんて、何故言わなかったのかと問うとあそこで言うのは何故かダメな気がして…と顔を青白くさせていた。

話してくれて有難うと言い、息子がいや、と言いながらテレビを見始める。

そしてふと思い出した。


私の実家があったところは昔大飢饉があったと言うことを、大雨で土砂崩れおき、街へ続く道が封鎖された村では食糧難になり泥を喰い始めた物もいたと言う…。

息子は感受性が高かった…。

もしかしたらあの地に縛られている魂が息子に夢という形で知らせていたのだろうか…


思い立つと私は日頃お世話になっている寺へ行き、相談した。

和尚はどうしても帰ると言うならコレを持っていろとガラス玉のようなものを息子に渡した。

それ以来息子があの夢を見る事は無くなったと言う。

かれこれ数年が過ぎた今も大丈夫な様だが…


先日、あのガラス玉に小さなヒビが入っているのを見つけてしまった。

何も出来ない私は息子の無事を祈るばかりだ。

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ぐちゃぐちゃ なつめオオカミ @natsumeookami

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