深夜の散歩

大黒天半太

深夜に歩く

 深夜に歩く。


 なんで、そんな時間に出歩いているのかと言うと、私にもわからない。


 ただ、誰かに呼ばれているような気がして、深夜にアパートを出た。

 目的も、目的地も、無く。


 散歩というくらいで、「散」には「とりとめもない」という意味合いがある通り、とりとめもなく歩く。


 とりあえず、一番近いコンビニに入って、水分と糖分の補給だ。


 と意気込んではみたものの、コーヒーは利尿作用があって、水分補給にならないと以前言われたので、目を覚ますためのホットコーヒーとは別に、ミネラルウォーターのペットボトルを買っておく。


 炭水化物には事欠かないコンビニの品揃えメニューだが、ここは新製品のフルーツ大福にしておこう。


 コーヒーじゃなくて、緑茶系じゃないにしても、十六茶か紅茶系にしておけばよかったか。


 そんなとりとめもないことを考えながら、フルーツ大福を口に放り込む。りんごジャムの味と求肥の食感がして、ちょっとだけ爽やかだ。



 カフェインとカロリーを補給して、ゴミもコンビニのゴミ箱へ捨て、荷物がペットボトル一本になると身軽になった気もする。


 深夜だが、ここから朝までが、長い。

 身体を曲げ伸ばしして解すと、軽いジョギングくらいまで、スピードを上げる。

 急いだからといって、朝が早く来るわけでもないが、何かに集中すると、時間は早く過ぎるように感じる。



 気がつくと、いつもなら通らない道に入り込んだようで、土地勘のない場所を進んでいた。



 少し進んだつもりが、急に闇に飲まれた。町の灯も、街灯も見当たらない。いや、街灯どころか、道に沿って並んでいたはずの電柱がない。靴の下の感触が、アスファルトのものではなくなっていた。


 また、やらかしたか? 意識しない間に、世界の隙間を通ったのか、何かに呑まれたのか、そこはさっきまで居た現実とは、地続きではない異界に入り込んだようだ。


 よかった。まだ、取り乱しては、いない。一呼吸で、ぼんやりしていた頭が、冴える。


 使える術と道具をイメージする。

 ストレージに入っている道具・装備アイテム・武器防具類は、いつでも出せる。

 魔法書マジックブック呪文スペルも、次々と頭に浮かぶ。

 久しぶりだが、勘は鈍っていない。


 微かな光が、呼んでいる気がする。

 その光の方へ、進んだ。



「ようこそ、勇者様」



 いきなり、これか? やれやれ、だ。

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