第59話
魔力もなく、全身もボロボロ。
誰が見ても絶体絶命と言うような状況へと追い込まれてしまっていた和人へと迫る蟲毒之王。
和人の前へと立った蟲毒之王は拳を握り、和人の命を刈り取らんと拳を振るう。
「む?」
「……和人?」
立っているのもふらふらで焦点の定まっていない和人が……孤独之王の一撃を確かに避ける。
「……む?」
回避した和人に首を傾げた蟲毒之王が再び拳を握って振るう。
だが、これもまた避けられる。
「……」
彼の動きは決して早くない。
だが、それでも何故か嵐の早く、ララティーナの目にも捉えられないような蟲毒之王の拳を避け続ける。
避けて、避けて、避け続ける。
「何が、起きて……」
一体目の前で何が起きているのかわからず、ララティーナは呆然と目の前の光景を見続ける。
「……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
蟲毒之王が自身の体に入っているヒビがどんどん大きくなっていることを知覚しながら、それを一切気にせず体を壊す勢いで拳を振るう。
だが、それでも当たらない。
どれくらい続けていたのだろうか?
拳を振るい、拳を避ける。
そんな応酬の果て。
「「……ッ!」」
突如として得体のしれない寒気がララティーナと蟲毒之王の背筋に入り、二人は同じタイミングで体を震わせる。
その次の瞬間だった。
「あっ」
「……ッ!」
今まで避けるだけだった和人が剣を握り、その牙を蟲毒之王へと向けたのは。
「……ごっふ」
和人の剣が蟲毒之王の心臓を確実に貫いたのだ。
「……ははは。これほどの武人に殺されるのであれば本望か」
心臓を貫かれた蟲毒之王は和人を攻撃することはせず、ただ後ろに下がって頭を一つ。
和人の方へと下げる。
「俺もそっちに……」
そして、蟲毒之王はその体を結晶へと変え……砕け散る。
蟲毒之王だった結晶は小さな粉となって天へと昇り、消えていく。
かつて、名だたる英雄たちによって封印され、今もなお眠っているはずの蟲毒之王を和人が完全に殺したのだ。
「……和人」
ただ一人。
蟲毒之王が死に、和人が倒した次の瞬間に倒れて気絶したことによってただ一人意識を残るだけとなったララティーナは傷だらけの体を引きずって和人の元へとたどり着く。
「帰還」
ララティーナは裏切り者である自分を助けるためにここまでボロボロになった和人の体を掴み、帰還石を発動した。
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