悪役令嬢の執事となった僕はゲームの世界へと勇者として召喚された最強格のスキルを手にした同級生たちと違ってスキルを持たない落ちこぼれ勇者様!
リヒト
第1話
本来は温かい陽の光を運んできてくれる窓は黒いカーテンによって閉ざされ、部屋に明るさをもたらす現代の機器たるLEDライトの電源は切られ、夜の帳をおろしている。
そんな最中、静かにファンの音を出しながら虹色に光るゲーミングPCとモニターだけが部屋を照らしていた。
「あぁー」
カチャカチャというコントローラーを操作する音だけが響き渡り続けていた中、人のうめき声とコントローラーがゲーミングテーブルに投げ捨てられる音が静かな部屋に響く。
「このクソゲー、ようやくクリアしたわ。クソッ……頭おかしいだろ、このゲーム。乙女ゲーのジャンルミスっているよ」
僕、家の近くに惰性で通っているただのどこにでもいる高校生である牧ケ谷和人はようやく友達からおすすめされた乙女ゲーを全クリしたのであった。
「こんな時間かかるとか予想外やぞ!?」
僕がさっきまでプレイしていたゲーム『リリスト』。
乙女ゲーを名乗る世紀のクソゲーである。
ストーリーとしては遥か昔に活躍した勇者の血を引く平民の少女が特待生として学園に通うこととなり、自分の住む国の王子やら貴族やら騎士やらと攻略し、仲間を増やしていきながら成長し、ゲーム開始時から人類社会を侵攻している魔王を討伐する物語である。
ここまでは別にそこまで不思議ではないのだが……問題はゲームの難易度にある。
まず、魔王がめちゃんこ強い。そして、攻略して仲間にしていく男たちがめちゃんこ弱い。
フル強化したときの主人公のステータスと攻略する男たちのステータスを比べてみれば天と地の差。
その性能にはびっくりするくらいの差が存在する。
魔王との最終決戦で普通に男たちは足を引っ張る。全力で引っ張りにくる。
主人公一人で魔王を倒すのは簡単だが、男たちと一緒だと難易度があがり、困難となり、普通に魔王に負ける。
なので、主人公は結構鍛えなきゃ魔王に勝てないのだが……ちんたら自分を強化していたら魔王が人類社会を滅ぼしてしまうのでバットエンド。
結果、このゲームは乙女ゲーなのにも関わず一切男と交友せず、主人公がぼっちをきわめて自分の強化に時間を注ぎ、ぼっちのまま一人で魔王軍を蹴散らし、魔王を討伐してゲームクリアする世紀の謎ゲーとなる。
乙女ゲー名乗るの辞めろや。
「ぼっち極めてもこんな時間かかると思わなかった……完徹したぞ。ゴラァ」
僕は不平不満を口にしながらゆっくりと立ち上がる。
そんなタイミングで僕の家のチャイムが鳴り響いたのだった。
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