第5話 思わぬ寄り道……?

「……それじゃあ、自己紹介から始めよう」


リッチーが住まうというある大図書館跡地に向かう一行。何もない丘を登りながら、塊になって歩いていく。馬車などの移動手段もあるが、大図書館跡地方面へ向かうものがなかったので徒歩となった。


そんな中、人一倍大きな荷物を持つ女剣士が話し始める。


「私の名前はレヴィだ。見ての通り剣士で、流派はグレイブ流な訳だが……」

「魔術は使えないのか?」

「あぁ、魔剣士はとうの昔に諦めたよ。どうやら人よりも魔力が少ない上に魔力回路が独特らしくてね。一度に取り出せる魔力量が極端に少ないらしい」

「純粋な剣術でギルド最上位か……驚いた」

「だったらわしは何になるんじゃ」

「お前はそもそも人間じゃないし刀も普通じゃないだろ」

「そうなのか?」


そう聞き返すレヴィに答えるように、紫雲は紹介を始めた。


「わしは幾千年も昔に作られた刀、この『雨切』に宿った付喪神紫雲じゃ。わしが宿ったことによりこの刀は妖刀になっているがな」

「紫雲……名も強さも聞いていたが、まさか人間じゃなかったとは……」

「都の人間なら大体知っておろう。世間知らずよのう」

「お前が言うのか……」

「して、そういうお主は紹介がまだじゃな」


次にそう促された魔術師が話し始める。


「……俺はオルタだ。最近都に越してきた魔術師だよ。魔術の同時展開可能数は最大三十。基本属性は網羅している。補助も支援も攻撃も可能だ」

「ん、何じゃ?後半の説明がわからん」

「属性は気にしなくていい。攻撃の技の種類が豊富ってだけだ。補助、支援、攻撃もだな。単純にできることの幅が広い。瞬間転移や治癒、身体強化や探知なんかもできるってことだ」

「驚いたな……そんなに適性が広い魔術師、都でも少ないだろう」

「師匠のおかげだよ。何も俺だけの力じゃない」

「えぇと、それで……同時展開なんたらというのは何じゃ?」

「並行して扱うことのできる魔術の数だ。普通は多くても十程度だが、俺はその能力が秀でているらしくてな。そこに関しては師匠並みに優れてるよ」

「オルタの師匠は何者なのだ……?私はそんなに優秀な魔術師を聞いたことがないぞ……」

「お互い様だろ。剣術一本でギルドの上を取れる教え方をする剣士を見たことがない」


話しながら、オルタは魔法陣を展開した。そこから水筒のような入れ物が出てくる。


「……便利だな」と大きな荷物を持つレヴィが一言。


「収納魔術だが……まだ空きはあるぞ。それもしまうか?」

「…………少しだけ頼む。この手提げだけでいいんだ。剣を持つ手は空けておきたい。それ以外は自分でもつ。自分の荷物だからな」


そう言って手提げの袋を渡し、荷物を背負い直したところで、今度は紫雲が声を上げた。


「何じゃ?向こうから強い気配を感じる。……大型の魔物かのう」

「は?何言ってんだ。向こうはただの森……いや待て」


すぐに小さな魔法陣を展開し、それを望遠鏡のように目に近づける。しばらくその状態でいると、オルタは魔法陣からそっと顔を離した。


「……ここから五キロぐらい先で戦ってる奴らがいるな。まぁ、優勢みたいだし問題はないだろう」

「ちなみにだが、その者たちはなんの魔物と戦っているんだ?」

「見たところ、ワイバーンのような魔物だな。かなり大型だが、魔術師が地に拘束している。心配はいらな———」

「ワイバーン!?とすると、あの空飛ぶ竜のことじゃろう!」

「そうだが———」


そう言うや否や、紫雲の姿が消えた。

不思議に思ったオルタとレヴィがすぐさまあたりを見渡すと、平原を走る者がたった一人———


「「速っ!?」」


言うまでもなく走っているのは紫雲だった。説明通りの文字通り、人間離れした身体能力で平原を馬よりも速く走り抜けていく。目標はその先にある森、つまりワイバーンと戦っている者たちがいる森へと向かっている。


「なんで紫雲は走り出したのだ!?」

「知るかよ!ともかく俺らも追うぞ!」

「だが速すぎるぞ、あれには追いつけない!」

「だったら俺の身体強化魔術を……いやダメだな……あいつの魔力を基点にして瞬間転移を———」


魔法陣を足下に出現させるが、すぐに光を失った。


「なっ……そうか、あいつは何千年も昔に生まれた存在……! 魔力の概念が存在しない世代の存在ってことだ……それなら魔力回路どころか、微量な魔力すら持っていないことになる……!」

「おい、どうしたんだ!? 魔法陣が……」

「……予定変更だ。身体強化と風属性の魔術で速度を最大限引き上げる。俺らも走るぞ」

「それで追いつくのか?」

「冷静に考えたんだが、追いつかなくても問題ないだろう。あいつが強いことは俺もわかっているし、何よりワイバーンと戦っている奴らが優勢なんだ。事故という事故も起きないだろうよ」


落ち着き払った様子で、メガネを上げる仕草をしながら説明するオルタ。口を動かしながらも、着実に魔術の準備を整えていた。すでに身体強化の魔術は完了しているようだ。


「……これは私の予想なんだが」

「む?」


冷や汗をかいているレヴィに、疑問の声を上げる。


「紫雲は“魔物“というカテゴリに入るだろう?だから、到着したら冒険者たちが敵だと勘違いして攻撃……いや、心配するのは逆か……『わしの獲物じゃー!』といって襲い掛かるやも……」

「……流石にそれは」


言いかけたところで、『ワイバーン』という単語を聞いた時の紫雲の反応を思い出した。

———あの、キラキラとした無垢な少女のような瞳を。


「———急ぐぞ!全速力だ!」

「あ、あぁっ!」

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