ファンタジーなら刀一本で斬り伏せる。〜斬れぬ斬れぬもわしが斬る!〜
雪味
第1話 刀と魔術の邂逅
その夜はとても冷えていた。
冬の寒気が空気を凍て付かせ、呼吸するだけで体の内側まで冷却される心地がする。
それも夜であればなおさらだ。すんだ空気は月明かりをこれでもかと地面に送る。そんな明かりに照らされたて、グロテスクな赤色が浮かんでくる。
「んー、暇じゃのう。今回の奴らも切りごたえのない者どもばかりでおったしなぁ」
人の身長を悠に超える高さの死体の山。そこに腰掛ける、一人の人間が見える。少女のような若々しい顔に、腰ほどまでに伸びる長い銀髪。彩度の低い着物を見に纏い、その上から草色の羽織を着ている。
腰には刀の鞘を携えて、肝心の刀本体は手に持って丁寧に付着した血を拭っていた。
黒い柄に、長く伸びる刀身。
やがて全ての血を拭うと、つまらなそうに血に塗れた布を捨て、死体の山を蹴って飛び降りる。
「はぁ、また汚れてしもうた。湖が近くにあった気がするんじゃが……むぅ、水は嫌いじゃ……」
青い瞳を細くすると、刀を収めて不機嫌そうにどこかへ歩き始めた。
一つあくびをしたところで、その行く先に明かりが灯っているのが見えた。暖かみのある火の灯り。どうやらその光源はランタンのものらしいことは、遠くからでも確認できた。
その明かりが近づくと、持ち主も自ずと見えてくる。やってきたその人物は、丈の長いローブを羽織った長身の男だった。縁のないメガネをくいっと上げると、血に塗れた者に視線を向ける。
「おい、お前がここらで噂の人斬り魔物だな。……また、多くの人を斬ったそうじゃないか」
「ぬ?なんじゃ貴様は。見たところ都の手品師のようじゃが……」
「手品師じゃない。魔術師だ。……これだからお前のような無駄に長生きな魔物は嫌いなんだよ。今の世界のことを何も知らない。生産性のない老人のようだ」
「手品も魔術もなんら変わらんじゃろ。斬れるし。それにこちらも訂正してもらうぞ。わしは魔物ではなく付喪神じゃ。千年も万年も昔に作られたこの『雨切』に宿った神、それこそがこのわし紫雲よ」
「魔物も付喪神も変わらんだろう。どちらにしろ、危害を加えるの存在なのだからな」
重く響くような声低い音に、刺すような視線で魔術師は紫雲と自身の名を名乗った者を威圧した。
「わしをあんな下等なものと同列にするな。斬るぞ」
「炎を切れるのなら見せてみろ」
魔術師の男が前方に手をかざすと、その掌に規則的な円形の紋様が浮かび上がる。いわゆる魔法陣であり、その紋様が光を増すと、やがて火球が生み出された。
背後にあった死体の山を焼き尽くせるほどの火力と大きさ。当たればひとたまりもない。
「相変わらずつまらん手品よ」
そう呟くと、素早く刀を引き抜いて火球を切り刻んだ。細かく分割された火球は、勢いを保ったまま後ろの死体に着火した。炎はすぐさま広まり、紫雲を背後から強く照らす。
「その程度か?手品師。それならわしの本気を出す必要すらないなぁ」
「……褒めてやろう、魔物よ。だが調子には乗るな。俺の実力をあまり甘く見るなよ」
「御託はいい。さっさと奥の手を使え。でなければ退屈でしょうがない」
「死んでも文句は言うなよ」
そう言った瞬間、空間に魔法陣が展開された。その数は十や二十を超える。ドーム状に展開された魔法陣のその全てが、紫雲に照準を定めて構えている。
「まだ、足りんなぁ」
紫雲がそう言うと、ニヤリと笑って刀を構えた。
———宵闇の戦いは、その魔法陣の全てが斬り伏せられてから始まった。
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