さっきまで名前も顔も知らなかったゲーム仲間とばったり出会ってしまった件

桜枕

短編

「ふざけんなよ、マジでぇぇぇ」


『対戦ありでした~。いや~、やっぱり弱いわ~』


 深夜にもかかわらずテンション高めにオンラインゲームに没頭する。

 通話相手はゲーム仲間である"カナカ"さん。

 本名も顔も知らないからこそ気軽に誘ってゲームをできる。


「腹減った」


『そうだね~。何か食べれば?』


「もう一時じゃん。こんな時間に夜食なんてギルティだわ」


『わたしはお菓子の袋に手を出してるけどね』


「太るぞ」


『そういうことはお姉さんの体型を見てから言って欲しいかな』


「お姉さん、お姉さん、住所教えてよ」


『せんせー! ここに出会い厨がいます!』


 なんてアホなことも言える間柄だ。


「ちょっとコンビニ行ってきます」


『いいな~。あっ、わたしも行くからこのまま通話してよ』


 その提案にドキッとした。

 断ろうとしたが、スピーカーの向こう側から聞こえる生活音にタイミングを見失い、『準備オッケー』の声に生返事をしてしまった。


『深夜の空気っていいよね~』


「そうっすか。てか、一人で出歩いて大丈夫なんすか?」


『だいじょうぶ、だいじょーぶ。何かあったら警察に電話してもらうから』


 なんて楽観的な人なんだ……。


「着きました」


『お、はやいねぇ。お姉さんももう少しで着くよ』


「あ、Mチキ買おう」


『いいな~。わたしも買おっ』


「太りますよ」


『だからさ~、お姉さんの体型を見てから言いなさいって』


 レジに並び、通話状態のスマホをポケットの中にしまう。

 会計を終えて外に出てからスマホを耳に当てると"カナカ"さんのしょんぼりした声が聞こえた。


『ラストのMチキを目の前で買われた。さいあく』


「ざまぁwww」


『腹いせに何も買わなかった。この店にわたしの金はやらん!』


 肉声に驚き、コンビニの自動ドアを振り向く。

 そこに立っているお姉さんもスマホを耳から下ろし、何度か瞬きした。


「Mチキ食いますか?」


「いただろうじゃないか」


「確かに太らなさそうっすね」


「……エロガキ、出会い厨め」


 こんなことが深夜の散歩で起きるなんて夢にも思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さっきまで名前も顔も知らなかったゲーム仲間とばったり出会ってしまった件 桜枕 @sakuramakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ