【KAC20234】深夜の散歩は、まだまだ寒い

ぬまちゃん

ぶわっーくしょん!

 ずるずる、ずるずる。


 ああ、しまったな。昼はまだ暑いぐらいだったから、つい油断して薄着で来ちゃった。そう思ってジャケットの襟を立てて、彼が歩いていると。


「よお! こんな時間に奇遇だな」

「まあな。おまえこそ、なんでこんな時間に?」


 噂好きの級友が、パーカーを目深にかぶった状態で近づいて来た。


「今日発売の漫画を買い忘れてさ。ほんと焦ったぜ、そこのコンビニで最後の一冊ゲットしてきたんだ」

「へー、そりゃお疲れ様だな」


 級友は疲れた顔に満面の笑みを浮かべた。彼はそんな級友の肩を軽く叩いてねぎらった。すると級友は、彼の反対の手に握られている黒いボトル状のものを見て驚いた。


「おまえこそ、なんで深夜にだしのボトルなんか持ってるんだ」

「明日の朝のだしがないから、そこの自販機で買って来いっておふくろに言われてさ。最近は、だしが自販機で売ってるんだぜ」


 そうやって、二人が会話をしていると、その横を隠れるように通り過ぎる女性が。


「あれ、彼女じゃん!」

「どうしたんだ。こんな夜遅く」


 声をかけられたロングコートの女性は、びくりとして一瞬立ち止まってから、おそるおそる彼らの方を振り返った。


「えへへ、こんばんわ。君達もこんな深夜に散歩かな?」


 肌寒さのせいか、大きいサイズのロングコートの前身頃はしっかりと閉じられ、一番上の首のボタンまでしっかりと止まっていた。


「俺はだし汁の買い出し。で、こいつは漫画の買い出しだってさ」

「そーなんだ。わ、私はさ、コンビニに買い物しようと思ったけど、お財布忘れちゃって、家にかえるところ、かな」


 「そうか。じゃあ、おまえ。ちゃんと彼女を家まで送ってやれよ。俺は反対方面だからあっち行くわ」


 級友はそう言うと彼と彼女をその場に置いて、道路の向こう側に消えて行った。


「んじゃあ、帰るか。送っていくよ。どうせ近所だしな」


 幼馴染の彼は、そう言って彼女と歩き出す。



 あーあ。なんでこんな時間に彼に会うかなー。

 眠れないから、深夜だから、人通りもないと思って、パジャマの上にロングコートだけ羽織って出て来たのに。

 あ、でも、彼にだったら見せても良いか。


 自宅の前、玄関に入る時に、ちらりと。


(了)

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