また君に会えたなら

石河 翠

第1話

 だれかにばれたようながして、ふとそとかけた。こよみうえでははるとはいえ、まだまだよるえる。日付ひづけわったばかりの時刻じこくということであれば余計よけいにだ。


 えかねて、スーパーすうぱあ各種かくしゅミニカップみにかっぷ唐揚からあげをいこみ、路地裏ろじうらはいむ。


 ここはむかしからになっていて、ふゆからはるにかけて綺麗きれい椿つばきたのしめるのだ。


 しばらくいそがしくてにくることもなくなっていたが、ちょうどいい機会きかいだ。ひとつ花見はなみといこうじゃないか。


 すると、めずしくそこにはおきゃくがいた。真夜中まよなかだというのに、きりりとしたまなじりの和服美女わふくびじょがひとりちつくしている。


 たまたまとはいえここは私有地しゆうちストーカーすとおかあ間違まちがえられてはかなわない。あわててまわみぎをしようとしたところで、彼女かのじょつかまった。


だれにもかえりみられぬままれるのはあわれではないか。おまえもゆっくりていっておくれ」


 もしかしてこの美女びじょは、ぬしいなのだろうか。スーパーすうぱあったもの唐揚からあげをわけあい、椿つばきでることしばし。かえぎわ、せっかくだからと彼女かのじょから椿つばきえだごとわけてもらった。


 翌日よくじつ美女びじょとの衝撃的しょうげきてき出会であいを悪友あくゆうはなしたら、どくそうなかおかるかたたたかれた。まれてこのかた恋人こいびとがいないせいで、とうとう妄想もうそうまでこしたのかと。


 昨日きのうったは、数ヶ月前すうかげつまえ駐車場ちゅうしゃじょうになってしまったのだという。それにともないあの見事みごと椿つばきも、すべてられてしまったのだそうだ。


毎年まいとし立派りっぱなものだったのに。もったいないな」

「まあっぱらいの戯言たわごとだとしても、おまえてくれたのだから、椿つばきりただろうよ」


 ゆめではない証拠しょうこに、部屋へやなかにはたしかに椿つばきはなけられている。無精ぶしょうおとこ一人暮ひとりぐらしゆえ、使つかっているものは華瓶けびょうではなくお銚子ちょうしなのだが。


 なぜか、昨日きのう出会であった美女びじょあでやかなみがあたまからはなれなかった。せっかくなのでしばらくぶりに実家じっかもどって、にわ椿つばきえだえてやろうとおもう。

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また君に会えたなら 石河 翠 @ishikawamidori

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