異世界帰りの名探偵

雪見弥生

プロローグ

 空には竜が飛び交い、木々にはハデな色の果実がなっている。

遠くには燃える海に照らされた島が宙に浮かんでいる。

目の前にはいかにも悪者といった風貌ふうぼうの男が殺意のこもった目で睨んでいる。

横には良く知っている五つの顔が並んでいた。

・・・・忘れるはずがない。

このふざけた世界も、一緒に過ごした仲間たちのことも・・・・


「・・・・・・」

目を覚ますと傷だらけでボロボロの天井が視界に入った。

部屋には電話のコール音が鳴り響いていた。

どうやらこの音で目が覚めたみたいだ。

引きずるように重い体を起こす。

ベッド代わりにしているソファが今にも壊れそうな音を立てる。

『困ったことは当探偵事務所におまかせ!

迷子のペット探しからテロリストの鎮圧ちんあつまで!何でもやります!』

作りすぎたチラシがテーブルを埋め尽くしている。

ハアとため息をつくと、めんどくさそうに物であふれたテーブルをかきわけていく。

「・・・・ただでさえ散らかってるってのに」

ブツブツと文句を言いながら騒音の原因を手に取り、通話のボタンを押した。

「よう、こんな時間にいきなり何だよ」

『こんな時間って・・・・もう昼過ぎだぞ』

電話の向こう側からあきれたようにため息が聞こえる。

『まあいい。いい年して相も変わらず暇を持て余しているのだろう?

仕事の依頼だ。メールで送った場所に潜入しろ。詳しいことはファイルを確認しろ』

「はあ? おい、俺はやるって言ってないぞ・・・・くそっ、切りやがった」

こっちの返事を聞きもせず、一方的に要件だけ伝えて電話は切れた。

「久々に連絡したと思ったら、あいつ・・・・また面倒なモン押し付けやがって。どうやって入り込めって言うんだよ」

上橋うえはし高等学校』メールに記された行き先を見て、

うんざりしながら重い腰を上げた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


私はこう見えて意外と常識がある普通の人間だ。

そりゃあ確かに髪はチョット染めてるし、制服も崩して着てる。

放課後にファミレスで友達と長居したり、

こっそり夜遅くに出かけたりもするけれど、それってみんなもしてることでしょ?

それにもちろんどれも校則に引っかからない範囲でだし、

こう見えて学校を一度もサボったことのない、

自分で言うのもあれだけど、割と優等生だ。

そう、誰が見ても私は普通だ。

だからこんな平凡で普通な高校生の私の目の前でこんなことが起きるはずがないし、巻き込まれるなんて絶対にありえない。

ありえないはずなのに。

「ウソでしょ・・・そんな、こんなこと。魔法なんて!絶対ありえない!」

私の叫びをかき消すようにまばゆい光とともに

空が裂けるような大きな音が鳴り響いた。

ここ数日いろんなことがあったけど、最後の最後で私の心と頭は完全にパンクした。

こんな非現実的なこと、どうやって説明しろっていうのよ。

何をどう話せばいいんだろう。

まずは受け入れる準備をしよう。

頭の中を整理し、心を落ち着けるためにも、最初から順番に思い出していこう。

まずは始まりの日、あの日の朝、

私はいつものように家で起きてそれから・・・・・・


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