いらんもん見つけた話

家宇治 克

第1話 なぁんで見えちゃったのかな~~~

 まず大前提に。

 作者はゴミカス程度に霊が見えます。「霊感があります」って書くと、なんか凄い力があるように見えるので。

 実際のところは、必要ないタイミングで、カスミかゴミかのような見え方をするくらいです。

 霊能力者さんがよく仰る「意味無い力」の、さらに意味無い感じ。



 さて、それを読んでいただいてから本文を。


 夏も終わり、秋のあしおとを感じる田舎の夜に。田舎はよく静かと言われるが、虫の声や風に揺れる木々の葉音、浮かれた走り屋バイクの音等、割とうるさい。

 情緒ある表現をしたいが、本当にうるさい。静かとか言ったやつ誰だ。


 でもそれが聞きたくて、何となく外に出た。

 ぬるいような、冷たいような風が吹く夜に見上げる星は、格別綺麗に見えるので、私は適当に理由をつけて外に出る。今日は『コンビニに夜食を買いに行く』こと。理由がないと、出かけるのがおっくうな怠け者なので。



 まぁ、田舎なのでコンビニもそこそこ遠く、軽い散歩がてら歩いていく。

 夜中に食べるのだから、あまりカロリーの高くないものを、なんて考えて、店内を歩き回る。


 悩みに悩んで、結局、肉まんと唐揚げを買った。

 深夜の肉まんとか唐揚げとか、昼に見るよりも誘惑度が高いのはどうしてだろう。

 でも食べるのが楽しみで、早く家に帰ろうと鼻歌交じりに店を出る。



 その帰り道だった。



 足音が多い。

 夜中は誰も歩かないし、車もない。

 冷えた空気は音が響きやすい。それを除いても、自分の足音とは別の音がした。

 誰か、コンビニに用事でもあったのだろうか。それとも散歩だろうか。──こんな夜中に?


 割と歩く速度が早い。でも、自分を追い越すようなことをしない。ちらっと影を確認するが、街灯の明かりの下にもそれは無い。


 遠いのか、いいや、遠くない。

 でも近いとも言い難い。


 男の人だったらどうしよう。

 ちょっとヤバそうな人だったら?


 そう考えたら怖くなって、先に行ってもらおうとした。ついでに相手の人相を確認しようとしたのが間違いだった。


「おっひょ」


 私の後ろを歩いていたのは、下半身だった。灰色のつなぎを着た、下半身だった。


 息を吸い込むのと、声を出すのを同時にしてしまったため、ディ〇ニーの〇ーフィーのような声が出た。今その場で「ディズ〇ーのグ〇フィーのモノマネをしろ!」という無茶振りを食らっても、即対応可能なくらい似ていた。今後一生似ないだろう。


 彼か彼女か分からない下半身が歩いていたのはともかく、(いいや、全く良くないのだが)私は買ったものが冷めないうちに帰りたい。

 でも霊というのは、見える人に出会ったらついて行くという、何一つこちら側にメリットがないことをする。


 案の定ついてくる下半身。

 早く振り切って帰りたい私。

 どこを歩いても見つからない上半身。


 もうどうしていいか分からない。

 夜空が見たいだけで出てきた人間にこの仕打ち。幽霊に物理攻撃が通じるなら、肉まんの紙をケツに挟んでやりたい。ちょっとびちゃびちゃする不快な感覚に、身を捩って悶えていてほしい。



 捩る身が無いわけだけど!!



 いつもなら、そういう系の幽霊は出先の地蔵やお寺に誘い込んで、宅急便よろしくあの世に送り届けてもらうのだが、残念ながら私の帰路は何も無い。



『はぁ~~~~~お寺もねぇ! 神社もねぇ! 自殺名所の川しかねぇ!』



 某有名歌手の替え歌風に言うと、こんな感じ。本当にどうしようもねぇ。


 いっそのこと「この辺に、迷える魂の導きに詳しいお地蔵様はいらっしゃいませんか~~~?」って、叫んでみたい。茂みの向こうから地蔵がひょっこり顔出したりしないかな。


 しないんですよね。何も無いので(泣)


 悩んだ末に「オウ、ワタシナニモデキマセーン」アピールをしてみたが、相手は下半身だ。目も耳もない。

 何一つ通じなかった。


「あんた、上半身どうしちゃったのよ!」


 ダメ元で奴に話しかける。もっと色々いいかはあったけれど、ビビりすぎておばちゃんみたいな言い方しか出来なかった。

 足が一瞬止まった。


「おめぇ、聞こえてんな!? 聞こえてて今無視したろ! なんなんだよ! 聞こえてんなら帰れよ!」


 虚空にキレ散らかす女の出来上がり。

 バイク乗りに二度見されたが、それどころじゃない。このままでは家に着いてしまう。

 家の中に入られるなんてたまったもんじゃない。


 幽霊を見た、よりによって下半身しかない。それがずっとついてくる。

 ビビっている私に出来たのは、たったひとつだ。


「この通りをな、真っ直ぐ行って信号を左に曲がるだろ。そしたらさすまたみたいな分かれ道に出るから、右の方の道を行く」


 お寺に向かう道を、ひたすら呟き続ける事だ。そっちに行け、という念を込めて、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し。


 歩いていけ、歩いていけ。てめぇの足で歩いていけ。私が出来るのはこれだけだ。歩いて助けてくれるとこに行け。上半身なんぞ知らん。捨てておけ。そのうち個別で向かうだろうよ。とにかくお前は寺に行け。行き方は教えてやるから、そっちに行け。道は敷いてやる。迷わないように覚えるまで教えてやる。黄色いレンガを辿ったら、オズの魔法使いに会えるのよ!!(混乱)


 そんなことを考えながら、下半身の霊に向かって呟き続けた。

 その努力が実ってか、橋を渡る前に下半身の霊は向かう方向を変えた。

 私が呟き続けた道を歩いていった。


 私は安心して家に帰る。すっかり肉まんは冷めていた。

 すごい怖い思いをしたが、困っているだけだったのだ、と考えると、道を示せて良かったのかもしれない。でも、もうこんな思いをするのはこりごりだ。

 二度と出くわしたくない。


 私は玄関のドアを開ける。

 夏の熱気が残る室内に、秋の風が吹いた。


 バイト先の開店準備中に奴の上半身と出会うのは、また別の話。

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