名もなきトリはミミズクに恋をした
もりや33
第1話
「ぜひこのうちの…マスコットであるトリちゃんがいるんですけど」
そう言って新卒カメレオンが私を彼の前に突き出した。
それまでの私は、カメレオンのその金色の髪の毛をきれいだなー、次は何色に変わるのかしら、なんて考えながらぼーっとまぶしい光の中に座っていただけだったので、突然視界の明るさが変わった上に、その場にいた大勢の視線が突然自分に集まるのを感じて、焦ってしまった。
目の前には、私の4倍ほどありそうな大きな図体、飛び出した大きな目、その上にとんがった2つの耳が、ふわふわと色とりどりの羽をつけている彼が堂々とそびえ立っていた。
「ダレだキミッ…!勝手に入ってきて!」
黒いくちばしをパクパクと動かしながら、彼が言う。橙色の大きな体は威圧的で、その声は大きかった。けれど、言葉と態度の尊大さとは裏腹に、その声音は笑いを含んでいた。そしていわゆるイケボだった。
とにかくごめんなさい、と謝りたくなったが、その声が私のくちばしから出ることはない。今更ながらその事実にハッとして、ますます焦る。
するとカメレオンが私を彼に向けたまま抱き寄せてくれた。
少しだけほっとしながらも、なぜこいつは突然私をひっぱりだしたのかと恨めしく思う。
「うちのカクヨムの、マスコットということで…」
カメレオンは私を少し持ち上げて、彼に向き合わせた。距離ができたおかげで、少し冷静になれた気がする。目の前の彼、これは、ミミズクといわれる生き物じゃないだろうか。色はずいぶん鮮やかだけれど。そしてたぶん、だいぶ大きい部類だけれど。
「同じ鳥類なので、ぜひ仲良くしていただけたら」
カメレオンがとんでもないことを言い出した。同じ鳥類だからって仲良くできるわけじゃない。そこは本人同士の相性がやっぱり第一なんじゃないだろうか。同じ種族だから仲良くできるなら、人間こそみんな仲良くすべきだ。そんな言いぐさ、相手にも失礼だろう。
「いやぁー、仲良くしたくても、喋んないすよねこの子…」
案の定、彼が戸惑いの声を出す。そりゃそうでしょ、突然あった相手と会話もしないうちに仲良くしてくださいって言われても困るにきまってる。
けれど、その一言は妙に私の心をえぐった。
カメレオンの傍らで、私はそっと自分の小さなくちばしを見つめてみた。このくちばしから声が出たらいいのに。
そしたら私は彼になんて言おう。
まず、さっきの突然の乱入を謝りたい。私のせいじゃなくて全面的にカメレオンのせいですけど、お邪魔するつもりはなかったんです、ごめんなさい、と。
それから、自己紹介をしなければ。KADOKAWAカクヨムのマスコット、トリです、と言うのだ。
それから、その耳の羽、素敵ですねって伝えたい。
それから、それから。
私には、彼に伝えたいことがたくさんできてしまった。
そのことに気づいたのは、カメレオンが私を小脇において、彼とよくわからない話を進めている時だった。
「ブッコロー賞…」
「コレとかあげませんか?」
カメレオンが彼の体を両手で包むようなしぐさをすると、彼は焦ったようだ。
「いやいやいやっ、それはだめですよ!なにを…アナタは言ってんですか」
カメレオンの手から距離を取りつつ、周囲の笑いを誘って突っ込む彼は、場の中心人物だった。対して私はカメレオンの陰にすっぽりと収まる、口のきけない小さなトリでしかなかった。堂々たるミミズクと楽し気に会話をしているカメレオンを、私は羨ましいと感じ始めていた。あんな風にしゃべってみたい。
「ブッコローと合コンに行け…」
彼が言うと、どっと笑いが起こる。カメレオンも口元を手で押さえてはいるが、肩がしっかり小刻みに震えていた。みんな笑っているのに、彼一人が大真面目なのがおかしかった。
そして、みんな笑っているのに、ひとりぽつんとカメレオンの陰に座っているしかできない自分が、とても寂しかった。
「ダメですか?ダメ?」
彼の耳の鮮やかな羽がふわふわと揺れる。
言動から分かる、このミミズクは人気者だし周りに気遣いができるタイプだけど、女性との出会いに積極的すぎる。
本能的な警告が頭の中で鳴るのが分かった。
けれど、遅かった。
私は、図体の大きなミミズク―R.B.ブッコローに恋をしていた。
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