今日も寝る子

おくとりょう

猫と少女

 もう何もかも嫌になって外に飛び出した深夜二時。ふと空を見上げると濃い紫色に染まっていた。もう夜なのに!月も星も紫だった。

 びっくりして辺りを見渡す。空どころか、町全体が紫色。道を照らす街灯も、窓からもれる民家の明かりも……。


『ねぇ、誰か!誰もいないの?』

 不安になって私は叫んだ。だけど、誰も応えない。それどころか、私の声が闇に吸い込まれていくような気がして、怖くなって身を縮こまらせた。


 ――かさっ。

 何か後ろで物音がした。私は思わず飛び上がる。

 すると、そこには年端もいかない少女。涙と鼻水でべちょべちょになっていた。への字に曲がった口から漏れる声は、小さくかすれてよく聴こえない。

 子どもか苦手な私はいつもならこっそり離れるのだけど、今夜は紫色の世界が怖くって、私はこっそり後をつけた。

 頼りなさげな足どりながら、迷いなく進んでいくモコモコ揺れる可愛いお尻。つかず離れず付きまとっていたのに、何度めかの角を曲がったとき。座り込んでいた彼女の背中にぶつかった。私は再び、飛び上がる。


「あれ?ネコちゃん?」


 嗄れた声の彼女の顔は、いつの間にか、鼻水が乾いてパリパリになっていて、少し気の毒になった。

「サングラス可愛いね」

 かすれた声での小さなつぶやき。意味がわからず小首を傾げると、視界がずるっとズレて、普段の夜が顔を出す。同居人の顔が浮かんだ。きっとすべて彼の思惑通りなのだろう。


「ネコちゃんも迷子なの?」

 少女は自分の言葉に寂しくなったのか、再び嗚咽をもらし始めた。

 私は彼女の額にピョイっとサングラスを載せて、彼女の側に寄り添う。小さな身体に響くように、低く小さく喉を鳴らした。

 不思議そうに見つめる少女。しっぽで数度地面を叩くと、まぶたがゆっくり下へと落ちて、静かに船を漕ぎ始めた。小さな口からツゥーッと落ちる白い一筋。

 いろんな不満を飲み込んで、月に向かって欠伸した。

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今日も寝る子 おくとりょう @n8osoeuta

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