第10話 いきなりのレースにゃー


 いよいよレースの時間が迫ってきた。

私にとっては2度目のレース……

公式ではないため、参加賞などの特典は発生しない。


私とフランはお互い、部屋で準備をしていたのだが、先に準備を終えたフランはまだ30分もあるのに部屋の扉を開ける。


「あれ?もういくにゃ?まだ後30分……」

「行く時間は人それぞれでしょう?それとあまり散らかさないで、10分あれば片づけられるでしょ?」

「わ……分かったにゃ……」


私は慌てて片づけると、フランの後を隠れてついて行った。


「なんとなく仲良くなれる気がするんだけどにゃあ……」


私はひたすらフランの後を隠れて追いかける。


「うにゃあ……どうすれば仲良くなるのだろう……しっかり観察……)


すると角の所で私は誰かの柔らかい部分にぶつかる。


「にゃにゃ!?ごめ……」

「……ねぇ……何処までついてくるつもり?ここから鳥族専用なんだけど?」

「にゃにゃ!?どうして……」

「あんなにうるさい独り言言っておいてバレないとでも?」

「にゃはは……」

「はぁ……いい加減にしてくれる?集中力を切らして負けたくないの、私は勝たないといけないから、絶対に……お姉さんの為にも……必ず」

「お姉さんにゃ??フランも?」

「ミシュと一緒にしないで」

「にゃ!?」

「私はもう行くから、分かったらさっさと自分のレースに行けば?」


とそのまま歩いて行ってしまった。

正直あの2人には何か因縁があるのだろうか……


「色々あるのかにゃぁ……にしても……フランの……柔らかかったにゃぁ……」


そんなことを思いながら、私は、観戦会場に歩いていく。

鳥族レースが先なので、私たちは、鳥族のレースを観戦することが出来るのだ。


「あら?シャーリンさん……どうしたのです?何やら乗り気の顔じゃありませんわね」

「何かあったの?」


エリとロミが歩いてくる。

どうやら2人には、私に何かあったことは分かったらしい。

結構前世では顔に出ない、タイプではあったのだが……

この世界に来てから少しづつ変わってきているような気がする。


「にゃはは~何もないにゃ……」

「本当ですの?嘘は厳禁ですわよ?」

「もしかして、同室の子と何かトラブルでもありました?」

「フランですわね……確かにシャーリンとは合わなさそうですわ……鳥レースは今からですわ!見ますわよ!」

「そうだにゃ!」


私はテレビで鳥レースを見る。

確かにすごかった。皆飛ぶのが早くて……綺麗に輪の真ん中を通過している。

しかし……。


「ミシュさんがいませんわね……」

「後ろにいるね……あそこからだと厳しいかも……」

「先頭は……そのままフランさんですか……」

「さすがですね……」

「ミシュ……」


そう1位はフラン、ミシュは17位に終わったのだった。

正直ミシュは決して弱いわけではないと思う。

しかし、1級レースはやはり格が違うということを、私は大きくこのレースで知ることが出来たのだった。


私はあの時のフランの言葉を思い出す。


『努力なしで勝てる2級のような甘いレースじゃない』


「全くその通りかもにゃあ……」

「なんですの??」

「何か言いました?」

「いや!何でもないにゃ!」

「そろそろ私たちの番ですわよ!」


私達はそのまま歩いて行った。

正直、今回勝てなくても悔いはない……なにせ、1級レース優勝経験者達と一緒に走ることが出来るのだ。こんなに嬉しいことはないだろう。

しかしレースはレース……もちろん負ける気はなかった。


「私たちの周りはすごい人ばかりですね……」

「当たり前ですわ、1級レース優勝者たちばかりですのよ……しかも3000M……たった1周しかないですわ」

「シャーリンだいじょう……」

「スーハ―」


私は周りのことなど気にしてはいられなかった。このレースに勝つ!ただそれだけを思って。


「位置について!よーい」


私は前までずっと努力をしていたにゃ……こんなところで……負けるわけにはいかないにゃ!


ドン!


とという大きなスタート音とともに走り出す。

今回は、前回の失敗を学び、少し脚質を変更するようにした。

その戦術とは……


(さぁ……シャーリンさんの逃げ今度はじっくり……っていないですわ!?)


(シャーリンさんいったいどこに……)


(ロミさんの後ろ……前回は逃げでスタミナが切れたにゃ……だから……悪いけど風よけになってもらうにゃ。)



「ええ!?先頭じゃない!?出遅れた!?」


ミシュが叫ぶ。

そう、私はだれにも今回戦術変更したことを伝えていない。

出遅れたと思うのも当然だろう。


「あらあら~出遅れましたか~……これはきついですよ~」

「違うわね」

「フラン!?何でここに……というか違うって?」

「別にいいでしょ、来たって。そしてシャーリンさんはおそらく……前回の逃げでスタミナをなくし、ロミさんたちに抜かされてる。だから温存しているんでしょ」

「でも何で……」

「あ~そういうことですか~つまり~スタミナが無くなったから50Mしかあの加速を出せなかったと~ということは~」



私はずっとロミさんの後を走っている。

スタミナに関しては申し分ない。


(はぁ……はぁ……前より余裕があるにゃ……あとはあの加速をいつ出すか……)


隣を見ると周りも速度を上げていく……

どうやらここが、スパート位置になるらしい……


(残り半分……今なら!!行けるにゃ!!)


私は猛烈な勢いで駆け上がる。

急に飛び出した私のスパートにより、ロミの反応が遅れてしまったらしい。


(しまった!?私の後ろで……くっ!追いつけない!!)


(この気配……後ろにいますわね!ですが……私だって!!50Mしか持たないのは知っていますわ!!)


私はエリにどんどん近づいていく。

そうして、横に並ぶが……私はスタミナをかなり温存していたので、スピードは落ちることはない。


(何故ですの追いつけませんわ!!?まさか!)


(スタミナは……まだ残ってるにゃ!!)


「にゃああああ!!」


私はその後も一気に追い上げそのまま先頭でゴールした。

正直、後ろの種族たちの事気にもしていなかったのだが、かなり突き放したらしい。


「はぁ……はぁ……やった……勝ったにゃあぁ!!けどもう限界にゃ……」


私はその場で倒れてしまった。

足はもう動く気配を見せることはなく、起き上がることが出来ない。


「シャーリンさん!」

「大丈夫ですの!?」

「あはは……また動けないにゃ……」


私は2人に担がれながら起き上がる。

何とか立ち上がるも、足がプルプル震えていた。


「良い走りでしたわよ!まさか後ろから突っ込んでくるとは思いませんでしたわ……」

「わたしでも全然追いつけませんでした……あの加速は本当に異次元です」

「にゃはは~良かったにゃ!ミシュさんこれで元気になってくれると嬉しいにゃ」


私はついつい笑ってしまう。

ここまで、周りから心配されるのは、初めての経験だったからだ。


「……」


そんな私たちを遠くで見つめている1人の種族がいた。


スライさんも無事優勝し、結局レースは推薦組が優勝することとなった。

そうして私達は再び、シュレーヌさんの前に集まる。


「まずは優勝おめでとう、皆良い走りだった。だがこれで気付いた人もいるだろう?才能だけでは何もできないということに……」


私はチラッとミシュを見る。

ミシュは下を向いていたが、時々光っている水が流れ落ちている。


(泣いてるにゃ……よほど……悔しかったんだろうにゃあ……)


「だがこれはチャンスでもある。勝負は常に勝ち負けの世界だ、ここから努力すれば1位を狙うことだって出来るだろう。簡単に言うならば……その才能を努力で開花させるということだ。一級レースというのは障害物が出て来たりコンデションにも左右される。それをいかに才能と努力で切り抜けられるかというのが鍵だ。これからの活躍を楽しみにしている」

「「「「はい!」」」」


そうして、そのまま解散することになった。

私はずっとミシュの事が心配で仕方がない。

ミシュに関しては笑ってスライと話してはいるのだが、内心、絶対そうは思ってないだろう。

この時が一番無理をしがちになる。

私は、ミシュが、今後、変な方向に無理をしないか、不安になるのだった。

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