第51話 トイレ

ダンジョンには当然トイレはない。女性の前で漏らすか、自己申告するか・・どちらも恥ずかしいことだが、それでもまだマシな方、つまり後者を選択した


「行く前にトイレに行っておけばよかった」


少し落ち込みながら用を足す


「これはまずいなあ・・・」


今日の俺は特に役に立っていない。つまり、このままではこのダンジョンデートでは恥ずかしい思いでしか残らない


「急がないと!」


ナナさんなら余裕で魔物を倒しているだろう。このままでは本当にダンジョンにトイレをしに来たという俺史上最大の黒歴史になってしまう


「待ってくれ。俺の分まで残してくれえええ!」


全速力でナナのもとに向かう


「ナナさんお待たせしましたー!」


ナナはまだ戦闘中のようだ。まだ活躍することができると分かり安堵したが状況をよく見ると


「─って、どうゆうことですかこの状況は」


目の前には満身創痍のナナさんと人間の冒険者?が戦っている。冒険者か・・どういう状況で争ってるのか分からないけど


「スグルいいところに来たね。この人たちに急に襲われたの」


「いやお前からだろう?」


ナナとリアムが互いに先制攻撃がどちらか言い争っている。その状況を呑み込めずあたふたする


「そんなことよりどうして魔族と人間が仲良くしている、お前はいったい何者だ」


何者って言われても・・自己紹介するべきなのか・・・


「どうもカミヤスグルって言います。ただの人間です。敵対するつもりもありません」


よく分からないがとりあえず手を上にあげて敵対の意思がない事を示す


「いや・・・人間のふりをした魔族かもしれない」


リアムは危険であると警戒する。だが、人間と魔族の違いがイマイチ分からないスグルはどうしようか迷っている


「証明方法がないのでよかったら体の隅々まで調べたり、話し合いもできますよ」


「だってさリアム、どうする」


アリシアとリアムは相談し始める。両者ともできるだけ戦いたくないようだ


「ちなみにその女が先に襲って来たんだぞ」


「いや・・・私は・・・」


ナナは気まずそうに下を向く


「そうなのナナさん?」


「てへへ」


あーナナさんからか・・それなら──奥義 土下座


「本当に申し訳ございませんでしたあ!」


おでこを地面につけ、深々とした謝罪を送る。日本で最強クラスの謝罪。これで丸く収まるはずだ


「私・・やる」


目にクマがあるヤバそうな少女、ソフィアがゆっくり迫ってくる


「えっ、効いてない?」


まさか奥義 土下座が効いていないことに驚きを隠せない


「ちょっと待て・・その・ほら・・誠意を・・」


これでもかと、何度もおでこを地面に打ち付けるがソフィアは聞く耳を持っていない


「何よ、人間に化けた魔族だって知られるのがそんなに怖いかしら」


どうやら人間かどうかの身体検査が始まるらしい


「ああ、そういうことね」


土下座が関係なかったことに気づく


「いや、俺男だし・・こういうのは恥ずかしいから、そこにいる男の人に・・」


異性に身体検査されるのは少し恥ずかしい。さすがに体を調べるなら同性がいいなあ


「スグル離れて、その女は危険」


「え?違うの?」


今度は目の前の少女に殺されるかもしれないと感じたスグルは逃げようとする


──封印鎖──


ナナの繰り出す鎖が迫り来る女を拘束しようと試みる。しかし、鎖は体をすり抜け無意味なものとなった


「はっ?お化けかよ」


鎖が少女の体をすり抜けたという現象に驚き尻もちをつく


「ヤバい腰抜かした。距離取れねー」


「なにやってるのスグル!それじゃ」


どうにか離れようと後退りするが、とうとう追いつかれてしまう


少女は両手で目の前にいる男を押し倒す。そして──


「見つけた・・私の運命の人」


女の口から唐突に出た言葉はこの場にいる全ての者の思考回路を崩壊させた


「え・・あの」


「私ソフィア」


「え?何この状況・・意味が分からない。今俺自己紹介されてるのか」




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