第44話  今朝

ここはスグルの深層心理の世界。白く際限のない不思議な世界に突然放り込まれる。周りを見ても何もない。白くて殺風景な部屋。だからこそこの世界の調和を乱すかのような黒い椅子はよく目立つ


「久しぶりだねスグル」


目の前の椅子に座っているのは魔女だ。本を片手にこちらをあたかも知り合いかのような目で見ている


「ええっと・・・」


自分の記憶を頼りにこの魔女を検索し始める。その途端にものすごいスピードで外部から大量の情報が頭に流れる


「はぁ・・・アルフィアか」


突然情報が頭の中に入ってくるこの現象をどうにかしてほしい


「記憶がほとんど引き継がれてなかったんですけど」


以前会った時に記憶の引継ぎがどうとか言っていたのに全く上手くいっていなかった


「いやぁ、次はいけると思ったんだけどね」


不思議な魔女アルフィアは俺とアリスをこの世界に召喚した本人である


「それにしてもアルフィア、あの窮地をよく抜けられたな」


無謀にも王国にレオと乗り込んだ時のこと。剣聖とデカブツに追い詰められた俺は寸前でアルフィアに体を乗っ取ってもらいなんとか逃げ出すことに成功した


「それで、今回は何の用ですか」


「用が無いなら呼んじゃいけないのかな」


アルフィアは手を後ろに組みこちらに顔を近づけ何かを窺っている


いや、そういう訳ではないけど・・・


「じゃあ俺から質問、アルフィアはいったい何者なんだ」


俺とアリスをこの世界に召喚して尚且つ戦っても強い。この世界の強さの相場を見てきたけれどアルフィアは化け物の中の化け物だ。


「化け物はさすがに酷くない」


すまん、心の声聞こえるんだった


「でもスグルに私の心の声は聞こえないけどね」


「ずるいなぁ」


なんだ、ただ、からかいたかったから俺をここに呼んだのか・・・


「じゃあ俺帰るわ」


「え」


「この後予定があるんでね」


そう、ナナさんとのデートがある。イビルス邸から少し離れたところに綺麗な桜のような花が咲いているのを見つけた。ナナさんとのデートスポットには最適だろう


「ええっ、この私がいるというのに・・私のこともっと知りたくないの?ほらスリーサイズとか─」


アルフィアは自身の武器でもあるスタイルの良さを見せつけるためあらゆるポーズをとるがスグルの頭はナナとの初デートでいっぱいだ


「じゃあね」


「ちょっと待ってよ」


まさか本当に帰るわけないだろうと思っていたアルフィアは慌ててスグルの手を引き留める


「え・・ちょ・・」


「どうしたの・・まさか恥ずかしいの?」


スグルのリアクションを見てアルフィアは面白いものを見つけたかのような悪い顔をしている


「お姉さんがいい事してあげようか?」


手を伸ばしスグルの顔周りを触っていく


「分かった。なんでも聞くから勘弁してくれ」


スグルは両手を上にあげ降参のポーズをとる。あまりの恥ずかしさに観念したようだ


「じゃあここ以外でアルフィアと話さす方法はないのか?」


「ん~」


アルフィアは頭を抱え込んでいる。難しい質問のようだ


「アルフィアじゃなくてフィアって呼んで。なんか愛称みたいなので呼ばれたいな」


「うん。分かった・・・それで・・」


質問の答えを待つ。しかし相手の態度を見るになぜか噛み合っていないように感じる


「質問には答えたよ。あだ名を教えてでしょ」


「言ってないわ」


魔女とはこうも話の通じない存在なのだろうか。からかうことに味を占めケラケラ笑っている。どうしようもない魔女だと思いこの無駄話に付き合った


だがそう楽しい時間も長くは続かない。覚醒の時間が近づき白く終わりのない空間は崩れ始めた


「またピンチな時は力を借りるぜフィア」


「はーい。またね」


そして純白な世界は何もない真っ暗な世界へと変貌する


「アルフィア」


目を覚ますとまだ日が登り始めた頃だった。横でまだナナさんが寝ている


「あれ・・フィアのこと覚えてる」


記憶の引き継ぎが上手くいったのか。少し頭が痛いが大丈夫だろう。それにしても寝ていたのになぜか疲れが取れていない


「にゃーもう起きてたの?早起きだね」


ナナは目をこすりながら甘い声で囁く


「起こしちゃったね、俺少し散歩してくるよ」


部屋を出て適当にブラブラする。ナナさんにも準備というものがあるだろうから


屋敷を出て日の光を浴びる。庭にはたくさんの花が咲いており全てナナさんが育てているようだ。そのことからナナさんが花好きということが分かった


「それにしてもこの魔導服着てデートしなきゃいけないのか」


人間であることを周りに気づかれないようにする為に着なければならない。しかしフードまで被らなければならず、なかなか感じの悪い人みたいになってしまう


「スグル様、少しよろしいですか」


亜空間から突如現れたのはこの国の幹部リオだ。空間移動のスキルを持ち、魔王ロキの一番の配下である。そんな彼が自分に何の用だろう


「ロキ様がお呼びなのでご同行よろしくお願いします」


「え、ちなみになんの用か分かる?」


この後ナナさんとの初デートがある。すぐに終わる問題なのだろうか。ものすごく嫌な予感がする


「いえ、詳細は伝えられておりません」


「ちなみに拒否権は・・・」


「ございません」


ですよねー。なんてタイミングが悪いのだろうか


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