第35話 魔王
「コロニアス陛下、遠征部隊との連絡が一切取れません」
ナバルデウスの指揮した遠征隊は誰一人して帰還しなかった
この報告にライン王国の貴族達は驚きを隠しきれずにいる。この機を逃すものかと言って息子を戦場に送り出した親は気が気でない
「ナバル、頼むから無事であってくれ」
王国内ではこの異常事態に臨時の会議が開かれることになった
「陛下、発言よろしいでしょうか」
「申してみよ、アリウス」
「今回の遠征失敗により我が国は経済的に大きな痛手となりました。しかし、本当に危険なのは国王の命でございます。軍の補強も兼ねて腕のある冒険者を傭兵として雇うのが得策だと」
はっきり言って強力な敵を前に一般兵では意味がない。実力者がこの国には必要だ
「分かった、人選はそなたに頼もう」
「はっ、仰せのままに」
大きな何かが王国を蝕もうとしている。これ以上好き勝手やらせるわけにはいかない
アリウスは王の命令により隣国のノルン共和国へと向かった
ここは魔王勢力圏の最西端に位置する龍神国家イビルス。人間の国から一番離れた魔王国であり、人間との争いごとはほぼ無縁である
「今度の魔王会議に吸血鬼の女王は来るのか」
つい最近の魔人協会襲撃事件は魔族の間でもかなり話題となっていた。龍の都では龍人の大王ロキが主催者代表となる
「ロキ様、畏れながら私どもでは把握しておりません。しかし、生存しているのでその可能性は十分ございます」
少年のような容姿でコーヒーカップを片手に足を組み部下たちの報告を聞いていた
「第二のパンドラか・・・」
魔王ロキの口から突然パンドラというワードが飛び出す。しかし、知識の浅い部下たちは何のことだか分かっていないようだ
「パンドラはこの世の厄災だ」
来たる日に向けて準備が必要だ
また、違う国でも魔王会議が話題に上がっている
「不可侵を忘れたのか、なぜ吸血鬼の女王の貴様がここにいる」
「つれないこと言わないでよ、カザリス。ご近所なんだから」
ここは、
「それで、いったいなんのようだ」
「えっとね、爺やあれ持ってきて」
「はい」
ルミナに言われ師匠は棺のようなものを持ってきた
「なんだそれは」
「王国騎士団長の死体、これはお土産」
ルミナからカザリスへ死体がプレゼントされた。カザリスが死兵を求めているのは周知の事実であり人間の死体は特に強力な死兵になるようだ
「まだ、状態のいい死体が山ほどあるけど・・・」
「分かった。要求を聞こう」
ルミナは一つの提案をする。この先のある戦争について
「ふっ、私の剣捌きに震えるがいい・・」
魔王エミル・レフィーヤは見えない敵と戦っている
「いや、私の前に薔薇のように散れっ・・・なんか違うな、私のt―」
「エミル様。失礼します、先ほど魔王会議の日程が決まりました」
──っん
突然の配下の報告に驚き狼狽える
「そうですか。それは楽しみですわ」
え、私の今のやつ見てなかった?普通に接してくるですけどー
「あんまり気配を消してはいけませんよエルモア」
「失礼しました」
報告も終わりエルモアはただひたすらエミルのことを見つめている
「エルモア、もう行ってよろしいですわよ」
「・・・」
「エルモア、聞いてるの」
「はい、失礼致します!」
エルモアの熱い視線にエミルは自分の本性を知られていないかドキドキだ。一方のエルモはというと・・・
「なんて美しくてかっこいいお方なのか。同じ女性でありながら」
エルモアはエミルの姿を目に焼き付けていたのだ
「エルモア様。例のものが完成しました」
「よくやったわ」
ベクトリアの中心に大きな銅像が建った。多くの者が協力してエミル・レフィーヤにそっくりな銅像を作っていたようだ
エルモアは魔王エミルを一番近くで支えている配下であった。そのため主への執着が強く主の銅像を建てるまでに及んだ
最後は獣人の国ラフト。実力至上主義であるこの国では獣人の大王ダグラムが支配している
「ざはははは、久しぶりにあやつらと会えるわい」
全身に体毛を纏い、鍛え上げられたその屈強な身体は全ての配下をひれ伏させていた
「ダグラム様、お連れする従者は2人ほどでよろしいですか」
「そんなことどうでもいいわい。早く飯食わせろ」
「かしこまりました」
両手を使いあらゆる料理を口に運ぶ。品など母親の腹の中に忘れてきたかのように
魔王の中でもっとも危険な暴君ダグラム。弱点は知能指数が低いことくらいしか挙げられない。この五つの国でトップで魔王会議が取り行われる。開催場所は龍神の国イビルス
「こんな感じで魔王会議は取り行うみたいだよ」
「へー、それで今ルミナは隣の国に」
あんな感じでもルミナはしっかりと仕事してるんだな
「ところでその会議はルミナと師匠が二人で行くの?」
俺やアリス、レオ、カレンは人間であり無闇に他の魔族の国に行くのは危険だろう
「アリスも行く」
「だと思った」
好奇心旺盛なアリスなら絶対行きたがるだろう
「やっぱり危険じゃないか」
「でも隠し通すわけにはいかないし」
人間が認められない魔族の国で住むということはそういうことだ。次の魔王会議でなんとか俺たちだけは認めてもらうように画策していくらしい
「俺が代わりに行くのはダメか?」
「ん〜いいよ」
「え、いいの」
あれ、いいの?アリスならダメ、私が行くの、とか言ってきそうだったのに
「お兄ちゃん、私達人間を他の国にも認めてもらえるよう頑張ってね」
「ま、俺に任せろ」
あれ、俺、アリスに期待されてる。なんか嬉しいかも
「じゃあ、レオとカレンのことよろしくな」
こうして、俺、ルミナ、師匠の三人で龍の国イビルスに向かうことになった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます