外伝 双子の殺し屋

「これで終わりか」


王国へと帰還中の馬車を襲撃した。護衛は数名ほどで任務は容易であった


今月で何人目だろうか。私達の仕事は決して誇れるものではない


「これは・・・」


倒れている貴族の男の手にあるのは娘と思わしき人物の写真が入ったペンダントだ


「どうしたのお姉ちゃん」


「なんでもない」


私達は人を殺すことで生きることができる存在。なりたくてなった訳ではないが仕方ないと言い訳することはしたくない


「お姉ちゃん、今日こそは美味しいステーキ食べたい」


「そうだな、前は夜遅くて店閉まってたし。早く行こうか」


私達に与えられた自由は任務と任務の間だけ。そして、この仕事柄から普通の人が送れる普通の生活を私達はできない


「レナ、もしこの仕事をやめることができたら何がしたい」


この仕事を辞めるなんて不可能だけど・・・


「特に仕事を辞めたいなんて思ってないよ。お姉ちゃんと一緒だし」


私達2人は、捨て子だったため親を知らない。物心着く頃から組織に暗殺の技術を教え込まれた


「ただ」


「ただ?」


「アイツらは好きじゃないかな」


アイツらとは私達を作りたげた闇の組織のこと。存在しか知らず、私達に契約魔法を使い絶対遵守で殺し屋をさせている。逆らうことは不可能だ


「いい匂いだな」


以前行こうとしていたステーキ屋さんに着く。外まで肉のいい匂いが漂っている


「このミノタウロスの炭火焼きをください」


「同じので」


この店の肉はとんでもなくレアな肉だ。よだれを垂らしながらレナはまだかまだかと肉を待つ


「やっと来たあああ」


「ゆっくり食えよ」


しかし、レナは忠告を無視し、慌てて食べるものだから喉に詰まらせている


バシっバシっ


「の、のどに詰まった・・・」


「そんな机を叩いてアピールしなくても、急いで食べてたら当然だろ」


「あー死ぬかと思った」


この時間こそが私達双子の殺し屋に与えられた唯一の幸福な時間だ



翌日



「マリ、レナお前たち2人にまた依頼がきてるぞ」


普段、居酒屋であるこの店は闇の取引場でもある。ここに組織の仲介人が来て任務を伝えられる


「また、貴族の殺害か何かか」


「今回はどうも少女の殺害だそうだ」


「少女か・・・」


貴族の女の子にまで手をかけるほどこの国も腐ってるのか


「お姉ちゃん仕方ないよ」


「特徴は?どこの誰なんだ」


私達に教えられるのはどこの貴族で、その誰かぐらい。なぜ殺すかなんて知ることはできない


「詳細なんだが・・・」


仲介人の男は少し間を開けてから二人に伝える


「今回は異例だ。組織の本部まで二人で来いだとよ」


「それはいきなりだな」


私達を道具として扱う奴らに初のご対面か。そんな奴らの顔なんて見るのはごめんだが、もしチャンスがあるなら


「わざわざ、あたしらが招集される理由を聞いてもいいか」


「さあ、俺はそんなこと教えられる立場でもないしな」


まあそんなことを知ってもか・・・


***********************************



ライン王国を裏で牛耳る闇の組織、ヒュドラ。捨て子を拾い集め奴隷売買を主な生業としている


「アウロス様、幹部全員の死体が送り付けられています」


身元も分からないほど切り刻まれた無惨な死体が大きな箱に詰められていた


「どういうことだ」


いったいどこの誰が・・・


「死体と一緒に手紙が一通」



 

恭順の意思があるなら今夜、○□◇△に来なさい。来ないならこちらから殺しに行きます。組織を解体し、その全てを引き渡すことが条件です。




クソっ、追い詰めたと思いやがって


「襲撃者を見た奴はいないか」


「それが・・・ただの少女で」


「は」


少女が・・幻術の魔法などを使って身元を隠していたに違いない


「まあいい、ここの最高傑作を連れてこい」


あの2人なら返り討ちにできるだろう。このライン王国最大の裏組織に手を出したことを後悔させてやる





「お兄ちゃん、ルミナただいま」


「アリス遅かったけど何かあったのか」


もう日は暮れ、夕食でもいい時間だ


「ギルドが結構混んでて換金時間かかっちゃった」


実は闇の組織を掃除してきたとは言えない。これは必要な嘘だよね


「二人とも今日は外食でいいか」


「私はいいよ」


「アリスは疲れたから家がいいな」


夜遅くまでいるのは計画に支障が出る。それと、外食よりお兄ちゃんの作った料理の方が食べたいというのもある


「そうだな。アリスは今日いろいろ大変だったろうから俺が振る舞うぜ」


「よっ!さすがお兄ちゃん」


それにしても今夜は楽しみだな





「「参りました」」


やっと来たか


「この手紙を書いた奴の死体を持ってこい」


マリとレナの前に一枚の手紙が落ちている


この二人はこの組織で最強かつ従順な殺し屋。こいつらに勝てる奴などこの国では剣聖やS級冒険者くらいだろう


「あ、あのあたしらはこの仕事をいつか辞められるのでしょうか」


「ちょ、急にお姉ちゃん何言ってるの」


は、こんな時にふざけやがって


「死にかけのお前ら二人を拾ったのは誰だと思ってる」


「で、ですが」


「逆らう気か」


う、うわああああああ


「お姉ちゃん、大丈夫」


契約魔法により、使役者が一方的に罰を与えられる契約にしている


「お前ら二人とも契約魔法があることを忘れるな。死ぬまで俺のために働け」


「「はっ」」


この組織は誰の手にも渡さない。この俺、アウロス様を怒らせたことを後悔させてやる


「もういい、行け」

 





あの二人は俺の最高傑作でありこの国では規格外の化け物だ。どこの誰だか知らないが、残念だったな


アウロスはいつものように貴族からの賄賂を受け取りに外出する。外は組織の本部がある地下とは違って少し肌寒い


襲撃の際に多くの部下を失ってしまったため護衛に回せるのは数名ほどだ。しかし、王国内ではそこそこの手練れであり警護としては申し分ないだろう


「おじさん、どこに行くの」


背後から不自然に声が聞こえてくる


「だ、誰だお前は」


少女?いったいどうやってここまで侵入できた。部下は何をやっt―


「な」


いつの間に部下の死体が・・・


「最後に言い残すことは」


やばい、殺さr―


発声する間もなく、声帯は血に染まる。そして、痛みで脳が完全に破壊されてしまう


「ごめんね、アリス待つの嫌いなタイプなんだよね」





私達の契約相手が分かったけどアイツが死なない限り自由はない


「お姉ちゃん、いつかアイツ殺そ」


「そうだな」


今は奴隷だ。でもいつかは・・・


「ここ・・だよね」


「うん」


手紙通りだとここになっているが、ここには少し大きい椅子が1つ。辺りに人は見当たらない


「随分人気のない場所だね」


「幼少期の地獄の訓練所を思い出すな」


殴られ、蹴られ、ご飯はロクなものしかない。死ぬ寸前まで追い詰められた。その地獄のような場所を思い起こさせる風景だった


「お待たせ、少し早かったね」


本当に少女じゃないか。コイツが組織を半壊させただと・・・


「よっと、この椅子かっこいいでしょ」


少女は足を組み、あたかも女王様を気取るかのように嘲笑っている


「アリスのこと殺しに来たんでしょ。早くかかってきなよ」


見た目は少女だけど、実力が一切分からない。でも引くわけにはいかない


「レナ、同時にやるよ」


「うん」


なんで椅子に座ったまま動かないんだ。舐められてるのか


「舐めた態度でよかった。良心が痛まずに済むよ」


とった


「2人ともどこ狙ってるの」


ナイフを突いた場所に少女はおろか椅子さえない


「「なっ」」


瞬間移動?いや、本当に空を切ったのかもしれない。私達の位置が明らかにおかしい


「いったいなにをs―」


え・・首が・・・


少女の中心から放たれた斬撃は首を掻き切るかの如く迫った


「ハァハァ、な・・ん・なんだ・・・今のは、レナ大丈夫・・か・・」


「な・んと・・か・・・」


殺気だけで幻覚を見た。なぜか首を切り落とされたような、そんな気分だ


「もう終わりなの」


「あたしらに死ぬまで終わりなんてないのさ」


逃げたら命令違反で死ぬ。戦うしかない。だけど、


「お姉ちゃん、全く勝ち筋が見えないよ」


「ああ、あれはどう見ても少女の皮を被った化け物だ」


引くことはできないが、近づいたら殺される恐怖で全く体が動かない。クソっ

どうすればいいんだ


「「え」」


前に座っていた少女が消えた。どこだ、どこd―


「「ぐはぁ」」


二人は首元を掴まれて地面に打ちつけられる。脳が激しく揺れる


「二人ともアリスに雇われない、それとも死ぬ?」


相手は終始余裕の笑みを見せている


「残念だけど契約魔法で組織のトップに逆らえないんだよ」


ああ、殺されるんだ


「じゃあその障害がなかったらどう」


急に首元から手を離したと思えば、今度は黒い大きなバックから何かを取り出そうとしている


「はい、これトップの首だよー」


私達二人の目の前に組織の長、アウロスの首が転がる


「じゃあ」


「お姉ちゃんこれって」


「私達は自由なのか」


契約相手の死は契約破棄に等しい。私達は危機的状況の中で叶うはずのなかった夢が叶ってしまったた。ただ、


「逃げたら殺されそうだね」


そこが今、一番の問題


「アリスはそんなに酷くないよ。逃げるなら追わないし」


本当なのか


「ただ、後ろ盾がなくなった今、一部の貴族から顔が知られている二人が普通の生活を送れるわけないよね」


確かにその通りかもしれない。収入源すら見つからない可能性もある。しかし


「せっかく解放されたのに、今度は主人を替えて契約だなんてごめんだよ」


「アリスは雇うって言っただけで、契約なんて一言も言ってないよ」



「辞めたければいつでも構いませんよ」


「裏切るかもしれないんだぞ」


「あなた方に裏切られても大した支障はないので」


舐められてるが、この実力ならごもっともかもしれない


「お姉ちゃん、この話乗らない?レナね、どうせなら強い人のもとで働きたい」


これが現実的な選択なのかもしれない


「分かりました」


二人は互いに目を合わせ決心したかのような顔つきになっていた


「「ではこれからよろしくお願いします。ご主人様」」


「アリス、でいいよ」


見た目と相反して、目の前にいるこの少女は世界の均衡を崩しかねない力を有していると感じさせている


「「かしこまりました。アリス様」」


いつか私達二人が普通な生活ができるような世界にしてほしい。私達二人はその為に戦うと約束した

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