ぼくの村の深夜のお散歩

うり北 うりこ

第1話


 一年で一度だけ、深夜に村のみんなでお散歩する日があるんだ。

 お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、赤ちゃんも。みーんなで。


 一列に並んでぞろぞろ歩くんだ。その時はね、何があってもしゃべっちゃいけないの。後ろを振り向いてもだめだよ。


 だからね、赤ちゃんは大変なんだ。絶対に泣かせちゃ行けないし、前を向いてなくちゃいけない。

 お母さんたちは必死で寝かせて、起きないことを願って前向きに抱っこするんだよ。だから、うちの村では赤ちゃんは首がすわったらすぐに前向きに抱っこするきまりがあるんだ。不思議だよね。


 そうそう、首がすわってなくても前向きに抱っこしないとなんだ。そうしないとね、赤ちゃんがいなくなっちゃうの。

 しゃべったり、後ろを振り向いたりした人はね、みーんないなくなっちゃうんだよ。おもしろいよね。



 今日はね、そんな深夜のお散歩の日なんだ。お父さんもお母さんも、朝から怖い顔してる。

 でもね、ぼくは楽しみなんだ。夜にお外に出れるって楽しいよね。


 お外に出たら、お月さまがいつもより近くて赤くてキレイ。このお月さまを見ることもぼくの楽しみなんだ。


 石だたみの上をみんなで何もしゃべらずに歩いていくのも、とくべつな感じがしておもしろい。


「ふぎゃーーふぎゃーー」


 あーぁ。泣いちゃった。きっとその赤ちゃんは明日にはいないね。これから仲良くなれたのかもしれないのに残念。


 ゴールの鳥居が見えてきた。いつもはあんなに赤くないのに、今日だけはトマトみたいに真っ赤なんだ。かわいいよね。


 鳥居に見とれてたのがいけなかったのかな。ぼくの足は石だたみの隙間につっかかっちゃったんだ。


「あっ!!」


 あわてて口を押さえたけれど、声が出ちゃった。だけどね、何も変わらない。ぼくはみんなと一緒に歩いていく。


 だけどおかしいな。鳥居に全然近付かないんだ。


 となりにいるお母さんを見上げても、お母さんは黙って歩いてる。それにね、何だかみんな歩き方がおかしいんだ。疲れちゃったのかな?

 さっきまで背中がピーンってなってたのに、今は背中が丸まって足も引きずってる。元気なのはぼくとお母さんだけみたい。

 誰かのお父さんもお母さんもおばあちゃんもおじいちゃんも子どもも、みーんな足を引きずってる。

 よく見ると足から真っ赤な血がみえるんだ。真っ暗なのに、赤だけはキレイに見えるんだよ。


 なんだか、ぼくも疲れてきちゃった。それなのに、足はとまらない。もう、歩きたくなんてないのに。

 ねぇ、もう止まりたい! そう言ったつもりなのに声もでない。


 ねぇ、なんで? どうして? もう、疲れたよ! 止まりたいよ!


 振り向いちゃダメって言われてたけど、がまんできなくって後ろを向いたら。一年前にいなくなったおばあちゃんがいた。


 ねぇ、なんで? ここはどこ? おうちに帰りたいよ!


 ぼくの深夜の散歩はおわらない。


 ねぇ。いつになったら、おわるの?





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