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 顔を上げれば弛んだ目元が視界に入る。

 

「言い方には気をつけろと、あれほど注意しているのにまた……」


 私と視線が合うなり、田崎たざき部長はあきれたように言葉を漏らす。

 自分の仕事もこなしながら新人教育に尻拭いまでして、ため息をつきたいのはこちらの方だ。

 謝ったかと思えばケロッとしてまた同じ失敗を繰り返す。何度教えても身にならない様は、馬の耳に念仏だ。

 まったく最近の若い者は……って、私もまだそちら側に入るはずなのだけれど。


「そうやって下手に出るから調子に乗るんですよ。仲良しクラブじゃあるまいし、給料の分きちんと働いてもらわないと」


 チラチラ感じる視線にキッと睨みをきかせれば、前方にずらりと並んだデスクに着く若手社員たちが一斉に目を逸らす。

 白のカッターシャツにモノトーンのスラックス、この会社の制服と言えるスーツ姿の彼らはキーボードを弾きながらパソコンに向かい合う。


「隅田川くんの言うこともわからないではないが……また新人に辞められたとなれば面倒だろう」


 ダメなところを指摘すればひどいことを言われたと告げ口され、やり直すまで残業しろと言えばコンプライアンス違反を盾にされる。おかげで精神が病んだと新人が次々消えていく。ついたあだ名が若手いびりの天才。正しいことをしているはずなのに、納得いくはずがない。

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