2.出会いの夜
そびえ立つ高層ビルがひしめき合うオフィス街、窓に乱反射する真夏の光線を受けながら眉間に皺を寄せる。
手にしたA4の白い紙。そこに印字された文章も英数字もなに一つ納得いかない。
「全部やり直し」
掴んでいた力を緩め、前に手を振り切れば、束になっていた用紙が宙に舞う。
あ、こんなに枚数があったんだ。
でも全部見なくたって最初の数枚でダメなのがわかる。
隅々まで確かめるなんて時間の無駄でしかない。
私の目の前に立つ若い男性社員は俯いたまま、黙って用紙を浴びていた。黒縁メガネの奥が、今にも泣きそうに曇っている。言いたいことがあるなら言えばいい。そんな勇気もないくせに。
「……
覇気のない新入社員の代わりに、私の名前を役職つきで呼んだのは、最近めっきり髪が薄くなったと噂の小太りな中年男性だ。
噂になんて興味はない。ただ、仕事中にも関わらずコソコソ話をしている人たちのせいで、勝手に情報が流れ込んでくるだけだ。
灰色のデスクとセットになった椅子、キャスターを軽く動かした時には新入社員の姿はなかった。
自分から意識が逸れた隙を見て真っ先に席に戻ったらしい。散らばった紙も拾わず、逃げ足だけは早い。それくらい仕事もこなしてくれたらいいのに。
よく見れば頭の上に一枚、用紙が載っている。
それに気づいた周りの社員たちが肩を揺らして笑っている。
一体なにがおかしいのか。
この状況で笑える彼らに嫌気がさす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます