第120話 行ってきます
日本を出発する日の早朝5時、アラームで俺は目が覚めた。
「ふぁぁ…… 起きないと」
俺はあくびをしたのち、布団から出て洗面台へ行った。
歯を磨き、顔を洗い、髪を整えたのち自室へ向かい着替えた。
「……よし」
とりあえずいつも着ているパーカーに着替え、携帯などが入っているボディーバッグを持った。
事前に服などが入ったキャリーケースを郵送で事務所の方に送っていて、船にスタッフの方が積んでくれているので、あとは1階に行くだけだ。
「あ、その前に」
俺はいつも自分が使っているマウスとキーボードを優しく撫でた。
「行ってきます」
俺は独り言を言ったのち、階段を降りた。
階段を降りると、彩音と父さんがいた。
彩音は夏らしい白のワンピースを着ていて、頭には白い帽子をかぶっていた。
めちゃくちゃ似合っていて、俺は思わず見惚れてしまった。
「お兄ちゃん、おはよ〜」
「悠也も起きたか、道路混むから早く行くぞ」
「お、おう」
父の車は最大8人乗りの黒い車だ。
父が車好きだからか、結構いい車種で見た目も結構かっこいい。
「忘れ物ないか??」
「多分ないと思う」
「大丈夫です!!」
「それじゃあ出発!!」
父さんはそう言って、車を運転し始めた。
海外出張でなかなか運転する機会がなかったからか、これから世界へ挑戦する俺や彩音よりも父の方が元気だ。
しばらくすると、出航場所の港についた。
橋の上から見た感じ、白い大きな船で、いくらかけたのか想像もしたくない。
(勝たないとな……)
緋奈ちゃんの思い出のために用意したとはいえ、無料で乗せてもらったからには優勝トロフィーを持ち帰らないといけないと思った。
「んじゃあな 悠也、彩音 がんばってこいよ!!」
父はそう言って、俺と彩音を応援してくれた。
「うん!!」
「はい!!」
俺たちは父に見送られながら、船の中へ行った。
「すごいな……」
「そうだね…… ドラマとかでしか見たことない……」
俺と彩音が船の装飾や内装を見ながら進むとスタッフの方がいた。
「お待ちしておりました、彩音様 悠也様 こちらの鍵をどうぞ」
スタッフの人から俺は101、彩音は201の鍵をもらった。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!!」
「出航は40分後くらいを予定しております、では船内へどうぞ」
俺と彩音は荷物を置くために、自分の部屋へ向かった。
俺の部屋の反対側が、彩音の部屋になっていた。
「とりあえず、荷物置いてくるか」
「うん」
俺は鍵を開けて、部屋の中へ入った。
内装はダブルベッド、シャワー室と冷蔵庫にテレビとベランダ、俺が事前に送ったキャリーケース、そしてモニターと個人練習用のPCが置いてあった。
豪華客船の2人用部屋なので、俺の実家の部屋よりも広く感じる。
なんとなく俺はふかふかなベッドに寝転がった。
「あ〜」
二度寝を誘うような誘惑を放つベッドに、俺は負けそうになった。
(いかん、いかん……)
俺は洗面台で顔を洗い、眠気を覚まして部屋を出た。
「あやねん、一緒に練習しよ〜 あ、にーちゃんだ!! おはよ〜」
俺が部屋から出ると、緋奈ちゃんと彩音が廊下で話していた。
緋奈ちゃんは薄緑のTシャツとスカートを履いていた。
「おはよう、緋奈ちゃん」
「お兄ちゃんも一緒に練習する??」
「んじゃあ、そうさせてもらおうかな」
「おっけ〜 なら2人ともついてきて!!」
俺と彩音は緋奈ちゃんに案内されて、練習部屋への道を歩き始めた。
「緋奈ちゃん、最近の練習はどうだ??」
先週から本番が近いこともあり、俺たちと彩音たちは別のサーバーで練習していた。
作戦を考えてる美佳ちゃんには、何度かアドバイスや一緒に考える機会はあったが10通り以上のパターンをお互い出し合ったので、どれでくるのかわからないようしている。
「にーちゃんたちを倒せる作戦はできたよ!!」
緋奈ちゃんはえっへんと自信満々に言った。
「そっか…… 決勝で当たるのが楽しみだ」
「考えたのは美佳ちゃんだけどね〜」
「ちょっと、あやねん!! 私が考えたってことにする約束だったじゃん〜」
緋奈ちゃんはそう言って彩音に抱きつき、彩音の体を揺らした。
「え〜 そうだったかな〜」
「私があいうえの頭脳っていう設定じゃん!!」
「そこは美佳ちゃんだろ……」
「にーちゃん、まさか私の作戦に騙されたの忘れたの〜??」
「作戦……??」
彩音は不思議そうな表情で俺を見つめた。
(やっべ…… そういや、そんなこともあったな……)
ここ数ヶ月間、人生で最も一番充実していたというか色々なことがあって忘れていたが、緋奈ちゃんとタイマンを初めてした時に騙されて負けたことがあったのを思い出した。
「あれはズルだろ……」
「勝ちは勝ちだもん!!」
「すごいね緋奈、お兄ちゃんに勝つなんて……」
「そうでしょ〜」
緋奈ちゃんは俺の顔を見ながら、ドヤ顔で自慢をした。
とはいえ、あの時は俺が甘かったし、むしろあのミスがあったからこそ勝負強くなったとも思える。
ここは彩音に、あんなことで負けたという事が伝わっていないだけマシと考えるべきか。
(本当にあの時は情けなかったな……)
心の中で当時の俺を振りながら歩いていると、練習部屋についた。
※後書き
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