第88話 どうして私は頑張っているの??

 決勝ラウンド、グループC対グループD。

 私たち『あいうえ』はマリベルのチーム『ROSE』との試合が始まった。

 

 2本先取のルール。

 ステージは『空中神殿ファフニール』お兄ちゃんと大会の決勝で戦った、思い出のマップだ。

 


 第1ラウンドが始まった。

 事前の作戦会議で私と緋奈が前線で戦って、美佳と有栖が後ろから補助する形で立ち回るつもりだったけれど、前回同様マリベルの圧に押されて分断されてしまった。



「昨晩はどうした?? 急に反応なくなっただろ」


「なんでもないです、こっちの事情なので」


「そうかい あたしは昨日、お前を倒したなんて思っちゃいない 今日こそは最後までやるぞ」


 マリベルはアサルトライフルを構え、私に向かって発砲した。

 私はマリベルのアサルトライフルの種類を見たのち、弾丸の軌道を読み最低限の回避で避けた。


(私の未来視を知っていて発砲…… どうしてこの距離なんだろう…… 距離を詰めてくる様子もないし)


 私はマリベルの立ち回りが意味不明だった。

 私と緋奈が一緒にいた時は、仲間の1人と同時に私に向かって近距離戦を仕掛けてきた。


 ただ緋奈が私の補助に向かったタイミングで、仲間1人が私を離れて緋奈と1対1をしに行った。

 このまま近距離戦をすると思ったけれど、私とマリベルが2人っきりになったことがわかった瞬間、私から距離を取った。


 私が未来視でひたすら回避をしていると、誤操作をして弾丸が脇腹に当たりそうになり、全力で体を動かして回避した。


「……え」


「ちっ…… 外したか」


 マリベルは舌打ちをした。

 私は未来視をやめ、一旦大きく距離を取った。


「ちょ、逃げんじゃねぇよ」


 私の背中をマリベルは全力で追いかけながら、アサルトライフルを発砲する。


(ちょっと無理しすぎたかも……)


 全ての弾丸の軌道を読む未来視、慣れているとはいえ予選4回戦の2ゲーム(全勝だったから)、プロプレイヤーの方々の放つ弾丸は、ランキング戦で戦う人たちに比べて軌道が読みづらい。

 

 それをずっとしていたとなれば、当然疲れも溜まってしまう。

 

 柱や岩を駆使しながら弾丸を避けていると、リアルの体の方で少し目眩がした。

 このままでは負けてしまうと思い、緋奈たちに助けてもらおうとライフゲージを確認したけれど、みんな1割程度の重症だった。


 このライフの減り方を見るに、動くのがやっとのレベルで最悪立つことすらできなくて、このラウンドが終わるまで操作が効かなくてやられるか終わるの待ちという状態の可能性が高い。


「あっ……」


 私は逃げ続けるとマップの端っこまで追い込まれ、とうとう逃げ道がなくなってしまった。


「お前の未来視を見て思ったんだ、こんな高度なことしていて疲れないんかなって」


「……」


 マリベルはアサルトライフルを構えながら、私の方にゆっくりと近づいてきた。


「あたしも試しにやってみたが、正直こんなこと極めるくらいならエイム練習した方がマシって思えるくらい疲れる そんな技を予選からずっとしていて果たしていつまで続くのかってな」


「私は未来視がなくても、あなたに負けませんよ」


「どうかな、今の退屈そうなお前からは希望を感じられねぇがよ」


「……どういう意味ですか」


「まあ死ぬ前に教えてやる、お前はどうしてこのゲームをしてるんだ?? この試合に勝てば世界大会だってのに全くお前からは頑張ってやる的なのを感じられない」


「私は……」


 どうして私はこのゲームをやっているんだろう。

 大好きなお兄ちゃんがやっているから?? 緋奈たちと一緒に居たいから??


 前に可憐さんから質問された時も、即答できなかったことを思い出した。

 冷静に私はなんのために頑張っているのか、答えられない。


 褒められることは何度もあった。

 テストで満点を取ったときも、たくさん泳げたときも、賞をとった時も……。


 お兄ちゃんは昔、私に達成感を得ることが好きなんじゃないかと言ってくれた。

 

 果たして、このゲームにおける達成感とはなんだろう。

 世界最強になること、それは最も達成感を得る瞬間だと思う。


 でもその舞台が目の前にあるこの状況で、私は全くワクワクしていない。

 むしろマリベルの言う通り、退屈な感じさえしている。


 詰み状況、負けるのがほとんど確定していていわゆる捨てゲー(この試合は諦めて次の試合を頑張る)だから?? そうじゃない、私は二度ど負けたくないのにどうして??。

 

「こんなところで負けたくない……」


 自問自答するたび、疲労感を感じて目眩がする。


「まあよくやった、あたしにここまで本気を出させたのは北アジアじゃ ディネア以外誰もいない」


 私はこんなところで負けたくない。


 (助けて……)


 私は心の中で助けを呼ぶと、マリベルの後ろからグレネードが1つ飛んできた。


「なっ……」


 マリベルは咄嗟に回避し、最小限のダメージに抑えた。


「退屈だよね〜 あやねん、だってこの人、にーちゃん達よりもすっごく弱いもんね!!」


 マリベルの後ろを見ると女神の石像の裏に、全身傷だらけの緋奈が立っていた。



※後書き

読んでいただきありがとうございます!!

よろしければ、左上にあります星をクリックや感想、ブックマークをしていただけると今後の活動の励みになります!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330654169878075#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る