第60話 ファンサービス

 有栖は岩の上から、スナイパーライフルを持って俺の倒れている位置まできた。

 

 倒れている俺の体は、訓練所の自動回復で修復されて立ち上がった。


「なんだよ!! 今いい話してた最中なんだけど!!」


「いい話……?? もしかして浮気の…… 話……??」


「それは違うよ!! 本当に神に誓う、頼むから彩音たちには言わないでください、お願いします……」


「どうしよっかな…… おにーさん……」


 有栖はニヤニヤして、俺を煽ってきた。


 俺が有栖と話している最中、雪奈の方をチラ見すると雪奈は有栖の方に手を合わせて、まるで神を崇めているようにしていた。


 (ええ……)


 俺はそんな雪奈を見て、心の中で引いてしまった。


「声からして、間違いなく本物…… やっぱりえーちゃんは最高にかわいいですね ふへっ…… ふへへ……」


 雪奈は有栖をみて、限界オタクモードに戻っていた。

 

(さっきまでのいい話はなんだったんだ……)


「あ、あの!! え、えーちゃんさん!!」


「なんですか……??」


「え、えっとその…… ツーショット撮らせていただくことって可能ですか……??」


 雪奈が有栖にお願いすると、有栖ちゃんは雪奈の横にすっと行った。


「ファンの人……?? いいよ……」


「あ、ありがとうございます!! って、そんなに近くていいんですか??」


「近すぎたかな…… ごめんなさい…… 少し離れた方がいい……??」


「い、いえ!! む、むしろ近くにいてください!!」


「そう……?? ならこのくらい……??」


 有栖は雪奈のアバターの体と完全に接触しているところまで近寄った。

 雪菜は緊張で完全に声が震えていた。


「あっ…… あっ…… 可愛い」


「んじゃあ、スクショお願いします……」


「はぁっ…… はぁっ…… と、撮りますね」


 雪奈は限界オタクモードを押し殺して、有栖との撮影をした。


「と、撮れました!! あ、ありがとうございましゅ!! この写真は一生大事にさせていただきます!!」


 雪奈は緊張のあまり、途中で噛んだ。


「どういたしまして…… 初めてのファンの人とのツーショットで緊張したけど…… ちゃんとできたかな……」


「は、はい 最高によかったと思います!!」


「そうかな…… えへへ、褒められると…… 嬉しい……」


 有栖はそう言って、ニコッと笑顔を浮かべた。


「ああ…… しゅき…… バタン……」


 雪奈はそう言い残して、その場にぐたっと倒れた。


(何してんだよ……)


「というか、えーちゃん(有栖ちゃん)はなんでここにいるの…… 撮影あるんじゃなかったっけ」


「これは企業秘密だけど…… みんなは個人のお歌動画を撮影…… 私はもう終わったから…… 早く終わった……」


「なるほどね」

 

「それより、お兄さんはなんで女の子とゲームしてるの……」


「いや…… 今日で終わるイベントがあっただろ、それのスキンゲットするためかな」


「あれソロでもゲットできるはず…… わざわざお兄さんが、女の子とゲームするってことはやっぱり……」


「いや、違うから!!」


 俺が誤解を解こうとすると、有栖は俺のスマホに1枚の画像を送信した。

 俺がスマホを開いて確認すると、さっき雪奈と話していたところのスクリーンショットだった。


 その画像では、2人の距離が近くてカップルと言われても違和感のない距離だ。


「違うの……??」


「うん、ほんとうに誤解だ」


「でも…… この距離は…… 恋愛ゲームで別な女の子を落とす時のシーンで見たことある……」


 まあ確かに、この写真を見たら誤解されるのも無理は無いかもしれない。


「いや、雪奈はタイプじゃないから絶対に違う」


「んじゃあ、おにーさんはどういう子が…… タイプなの……??」


「それは…… 秘密!! 高校生の恋愛に首を突っ込むんじゃありません!!」


 俺は彩音のことを好きだと言うことは、さすがにまだできないので話をはぶらかした。


「まあ…… おにーさんがこんなに必死だから…… 誤解ってことにしたげる……」


「わかって頂いて、有難いです……」


 誤解が解けたからか、何故か丁寧語になってしまった。


「最後に聞くけど…… おにーさんとの本当の関係は……??」


「んーとね」


 俺はふと、有栖が俺と彩音の血縁のことを可憐に話したことを思い出した。

 多分有栖は口が軽いので、この事も誰かに話すような気がする。


 それに友達だと言っても、緋奈辺りに拡大解釈されて誤解をまたされると思う。


 彩音や美佳なら事情を話せばわかってくれると思うけど、緋奈は多分一生イジってくる気がする。

 

  (可憐と練習の時…… 可憐…… はっ…… この手なら……)


 俺はこの詰みのような状態の、正解を導き出した。

 

 それは新しいチームメンバーという嘘をつく事だ。

 

 可憐が仲間になった時、彩音はすんなりと理解してくれた。

 スクリムまでの時間も少ないし、チームメンバーというのが1番それっぽいだろうし、真っ当な理由だ。


「彼女は…… 俺の……」


「俺の……??」


「新しいチームメンバーだ!!」


「えっ……???  えええ!!!」


 俺が有栖に嘘をつくと、雪奈が立ち上がってこの場にいる人間で1番驚いた。


 雪奈の驚く声は、屋外の訓練所に響き渡った。

 



※後書き

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