第55話 推しの名前は??

 俺は、雪奈に連れられて屋上のベンチに座った。


「なんの用ですか??」


「とりあえず、えっと…… その ゆっ、ゆっ…… ゆうくん?? でしたっけ……??」


「悠也です……」


「そう、悠也くん!! いや〜 べっ別に忘れてたとかじゃないですよ??」


 雪奈は、目を逸らしながら俺にそう言った。


(いや…… 絶対忘れてただろ…… でも、俺も東寺以外と話さないし知らなくても当然かもな)


「まあ、なんでもいいです…… とりあえず俺を呼び止めた理由はなんですか??」


「ずばり、悠也くんは…… あいうえクランの誰推しですか??」


「……は??」


 俺は思わず、間抜けな声を出してしまった。

 てっきり、文学少女と呼ばれる彼女は自分がオタクのことを隠すため、俺に何かしらの交渉を持ちかけると思って心構えをしていたが違ったようだ。


(私の秘密を喋ったらぶっ殺すとか、俺の弱みを握っている、みたいな感じだと思ったけどなんだこの状況……)


「悠也くんも、あいうえ推しなんですよね!! さあ恥ずかしがらずに言っちゃってください!!」


 クラスで一言も話さない彼女だが、なぜかグイグイと俺に来る。

 よっぽど、あいうえクランが好きなんだろう。


「待て、そもそも俺はあいうえ推しとは言ってないだろ!!」


「えー じゃあなんで、えーちゃんの曲を聴いていたんですか??」


「いや、それは広告にたまたま流れてきたから……」


「お昼の12時アップロードの新曲が広告に流れるってことは、それだけあいうえ関連の動画見てますよね??」


「……」


 適当な理由をつけて逃れようとしたが、かえって墓穴を掘ってしまった。


「……そういう、雪奈さんは誰推しなの??」


 俺が雪奈に質問すると、雪奈さんは頭を抱えた。

 

「ん〜箱推しです!!」


「いや、俺に聞くんだから誰か1人に決めてくれ」


「みんな好きですけど、強いていうならえーちゃんが推しです!!」


 雪奈は有栖ちゃん推しだと言った。


(彩音じゃないなら、同担拒否!! みたいなのはないな……)


「まあ、あり……じゃなくて えーちゃんは確かにマイペースで癒されるよな」


 俺が有栖ちゃんのことを褒めると、雪奈はふふっと笑った。


「なんだ、笑うところか??」


「やっぱり悠也くんも同志じゃないですか!!」


「あ……」


 完全に雪奈のペースに乗せられて、俺もあいうえクランのオタクだとバレてしまった。


「悠也くんも、えーちゃん推しなんですか??」


「……いや」


「んじゃあ誰ですか??」


 雪奈はグイグイと俺の元に寄ってきた。

 雪奈の謎の圧力に押され、俺は逃げることを諦めて彩音が推しだということにした。


「強いていうなら、あちゃん…… かな……」


 俺が彩音推しだというと、雪奈は俺の横にきた。

 雪奈が俺の横に来る時、彼女の大きな胸が揺れた。


(でっか……)

 

 俺は雪奈の胸を思わずチラ見して、そっと別な方を向いた。


「いいですよね!! あーちゃん!! いや〜 なんと言っても綺麗な黒髪!! 可愛いだけじゃなくてゲームも上手、それに清楚で優しくてまさに聖母のような存在!! 控えめに言って結婚したいです…… ママ……」


「お、おう…… そうだよな……」


 途中雪奈が何を言ってるのかわからなかったので、とりあえず俺はうんうんと頷いた。

 

 俺の妹のことをママ呼びしたような気もするが、聞き間違いだと死ぬほど恥ずかしいので聞かなかったことにした。


「そういやいいのか?? 俺とこんなに話していて、クラスで陰キャの俺と話してるとこなんて見られたら、それこそバカにされるだろ」


「……いえ、いいんです 私は友達いませんから……」



 雪奈はそう言って、悲しそうな表情でベンチに座った。

 

 そんな彼女を見て察するに、おそらく彼女は本当に友達がいないんだと思う。


 実際に俺も、友達が最近までいなかったのでボッチの気持ちは死ぬほどわかる。

 

 俺はなんとなく、そんな雪奈がほっとけないと思って隣に座った。


「あのさ…… 俺でよければ友達になるよ」


「え…… いいんですか??」


「ああ、こんな陰キャの俺でよければね」


「いえ、そんなことないですよ…… では、これからよろしくお願いします!!」


 こうして俺は、この学校で2人目の友達ができた。

 まさか女の子の友達ができるなんて思ってもいなくて、正直驚いている。

 

「とりあえず、トークアプリ交換しますか??」


 雪奈はいきなり、連絡先を交換することを持ちかけてきた。

 東寺以外、ましてや学校の女の子と連絡先を交換するという青春イベントで俺は少し緊張した。


「いきなりだな…… 俺はいいけど、雪奈さんは異性の連絡先交換に抵抗とかないの……??」


「あいうえオタクでいい人そうな悠也くんなら、いいかなーって思いまして」


「そうっすか……」


 なんか雪奈の中で、俺があいうえクランオタクというキャラで定着してしまったような気がする。

 実際そうだけど、なんか恥ずかしい。

 

 雪奈は、トークアプリのQRコードを俺に見せた。

 俺がQRコードをスキャンすると、猫をホーム画像にしている雪奈の連絡先が表示された。


 俺は追加のボタンを押すと、友達の追加が完了した。







※後書き

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