第36話 君を一目見たかった


「もしも君があのKARENだとして、どうしてランキングに2週間目から参加していないんだ、あのスピードでポイントを取ってたら俺やあや…… じゃなくて あさんとトップ争い出来たと思うが……」


 彼女は俺の言葉を聞くと、彼女は悲しそうな表情をした。

 可憐の表情を見て何かを察したラリーは、俺の肩をトントンと叩いてドアの方を指差した。


「YUU君、ちょっと外に来てくれるかな」


「はい……」


 俺とラリーは病室を出て、5階の休憩スペースのような場所に行った。

 ラリーはテーブルのある席に座り、俺もラリーの横に座った。


「YUU君、彼女は昔から病弱体質なんだ……」


「……そんな感じはしました」


「生まれつきの先天性の心臓病で、運動などに制限がかかっていて幼い頃から病院によく行っていたらしい」


「なるほど、彼女はそんな病を抱えていたんですね……」


 俺は彼女の症状を知って、悲しい気持ちになった。

 ただ、そんな病気を持っていた少女があのレベルの強さを持っていたことに感動もした。

 

 彩音もそうだが、天才というのはどんな過去があっても強いのかもしれない。


「可憐さんとはどこで知り合ったんですか??」


「シーズン開始から半年、ゲームの人口が少ない時代は各国共通サーバーでやっていたからその時代に対面して強かったから、IDを検索してフレンドを送ってっていう感じだな」


「あの時代って確か覇王と呼ばれてた時代ですよね…… あの時のラリーさんがフレ送るとか強すぎますって……」


 俺が始める1年前まで、人口があまりいないため全世界共通サーバーでサービスをしていた。

 当時はプロ大会とかはないものの、ラリーなどはランキング戦で世界ランキング1位になっていた。

 そんなラリーが強いというくらいだから、動画やSNSで見た以上に可憐は強いのだろう。


「病気を抱えていても、そんなに強いんでしたらプロになってもいいんじゃないんですか??」


「彼女はプロになるはずだった、ソロでランキングを駆け上がり、君たちの出た大会で優勝すると言っていた」


 

「だが、ランキング戦を学校の合間にやるのは、彼女の体に負担をかけ病気が悪化してついには入院生活をすることになってしまった……」


 アジアランキングTOP32のボーダーは、最高ランク(チャンピオン)が2月〜4月の2ヶ月、毎日5〜7勝以上勝利することが条件だ。

 

 いくら強い人間でも、学校や仕事の後に最高ランク帯をやるというのは不規則な生活になり体調も崩しやすい。


 実際俺も体調を何回か崩したから、病弱な体質の方がやったら悪化するとは思う。


「俺は参加条件を満たしてなかったからあれですけど、プロチームからの招待とかってあるんじゃないんですか??」


「彼女は君と同い年、つまりはプロチーム応募資格の高校在籍1年以上に満たしていなかった」


「まじすか……」


 てっきり年上だと思っていたが、まさかの可憐と同い年で俺は驚いた。


「それに彼女自身も言っていたが、病を抱える自分をチームに入れるのは、企業目線でもリスクがあるだろう……」


「確かにチームで事故や活動で病が悪化したら、大事になりますしね……」


「ああ……」


「何となく彼女の事情はわかりました、それで俺をここに呼んだの何故ですか??」


「俺がYUU君に会いたかったのもあるが…… 彼女の夢だったプロリーグ参戦とソロ称号のどちらも叶えた君と会ってみたいと言っていたからだ、こんな重い話を聞かせてしまって申し訳ないとは思っている……」


「いえ…… 別に気にしていないですよ」


 何となくだけど、ラリーは口には出さないが俺のプロリーグのメンバーに、彼女を入れて欲しいんだと思う。

 

 だが病弱な彼女を大会に出して、更に病が悪化したら俺に迷惑をかけると思って声に出せないんだろう。


 俺は正直、彼女を仲間に入れたい。

 アジアリーグ初週の彼女は彩音と同等レベルの実力があった、そんな強力な人材は即採用したい。


 だが彼女がどう思っているか、わからない。

 話を聞いた感じ、世界大会を諦めているようにも感じる。


「彼女と2人でお話がしたいです、いいですか??」


「ああ、構わないよ」


「ありがとうございます」


 俺は椅子から立ち上がり、廊下を歩いて可憐のいる部屋の前まで行った。

 コンコンとノックした後、病室に入ると可憐は俺と彩音の戦っていた大会の決勝戦を見ていた。


「……やっぱり凄いね」


「いや、そんなことないですよ」


 俺は可憐の横にあるパイプ椅子に座った。


「ボクはね、前人未到のソロ称号とプロリーグ参戦を夢見ていたんだ、だけど病気が悪化してから入院生活が始まってしまってランキングを走れなくなってさ…… 全てを諦めていた……」


「……」


「でも、君はボクの夢だった2つを叶えた そんな君の顔を一目見れて良かったよ〜」


 可憐は少し涙目になりながら言った。

 俺は彼女の表情を見て、プロリーグ出たいと思う気持ちが少しあるように感じたので、誘うことにした。


「可憐さん もし俺が一緒にアジアリーグに出ませんかと言ったら、どうしますか??」


「……出ないよ」


「え……」


 


 


 


※後書き

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