第15話 やってはいけない事


 私、高橋友恵。何処から漏れたのか知らないけど、私が悠と付き合っている内に片角君、城之内君と関係を持った事がばれてしまった。そして私が悠に振られた事も。

 

 それ以来、廊下を歩いていても蔑む様な目と酷い言葉を掛けられる。クラスで一緒にお昼を食べていた人達も皆私から離れて行った。


 学食に行っても周りから酷い目で見られたり、卑猥な言葉を吐きかけられる。とても食べられた状況じゃなかった。

 悠も一人で食べていたけど、今更近寄る事は出来ない。


 みんなあの片角が悪いんだ。あいつさえGWの時にあんな事さえしなければ私は今でも悠と一緒に楽しい時間を過ごしていたんだ。




 放課後になり、私は職員室に図書室の鍵を取りに行く。先生達の目までもが私を蔑んだように見えてくる。実際は違うと思いたいのだけど。


 図書室を開けてPCを立上げ、図書管理システムの開始処理をしているとその間に常連さんがやって来る。いつものメンバーだ。少しほっとする。でももう悠は来なくなった。



 そんな日が何日も続いた。一学期中間試験が終わり、成績は散々だった。せっかく悠がいたのに勉強をおろそかにした所為だ。

 彼は今回も満点の一位。そして二位に工藤真理愛さん、三位に僅差で友坂絵里さんが続いている。




 もう悠と会わなくなってから一ヶ月以上が経った。片角君と城之内君は、あれ以来私に近付いてこない。

 私との関係が噂で広がった時、片角君や城之内君が付き合っていた彼女への言い訳とよりを戻そうとする事が忙しいらしい。


 結局、私だけが馬鹿を見たようだ。予鈴が鳴り、本を書棚に返して終了処理をする。もう常連さんもいない。

 私は、図書室の鍵を職員室に返してから下駄箱に向かった。


「えっ?!」

 片角君と城之内君が下駄箱にいた。


「高橋、久しぶりだな」

「ど、どうしたの片角君、城之内君」

「なに、お前との関係が二人共、彼女にバレてしまってな。それ以来させてくれないんだ。だからさ…。言わなくても分かるだろう」


「何を言っているのか分かりません。私は用がありますので失礼します」

「待てよ高橋」

 腕を掴まれた。


「何するんですか。大声出しますよ」

いきなり後ろから口を塞がれた。


「分かっているだろう。来いよ」


 私はそのまま、一階の空き教室に連れて来られた。男が二人では私の力でどうする事も出来ない。


「止めて下さい。大声…モゴモゴ」

「城之内、俺が先だ。押さえておいてくれ」

「分かった。次は俺だぞ」


 酷い、酷いよ。止めて…。



……………。


「ふうっ、久々にしたぜ。でも高橋はいいな。もっとしたいな城之内」

「大丈夫だ。正面からも後ろからもしっかりと録画してある」


「そんな…」

「悪いな、高橋。坂口が俺のスマホを壊してくれたおかげで城之内にも撮られてしまったな。城之内。俺にその録画送っておいてくれよ」

「もちろんだ。さっ、もう一回しようぜ」

「止めてー!…モゴモゴ」



 二人が帰った後、私は無様な姿で取り残されていた。そして目の前には使用済みのゴム放られていた。

「酷いよ。なんでこんな目に遇わなければいけないの」


 また、明日から同じ目に遇わされる。どうすればいいの。悠助けて。



 それから毎日の様に図書室が終わった後は、空き教室でやられた。今日も同じ目に遇っている。もう涙も出なかった。悲しいことに体が反応している。



 ガラガラガラ。


 いきなり男の先生三人が入って来た。


「お前達何している!空き教室から変な声が聞こえて来ると他の生徒から聞いて、来て見れば何てことだ」


「えっ、いや俺達は…」

「全員職員室へ来い」


 その時、私は酷い格好だった。片角君が後ろからしている所だったからだ。呆れた先生から、高橋も綺麗にして直ぐに来なさいと言われた。


 私は、先生達に泣きながら片角からGWのボランティア活動の後、ナイフで脅されて強姦された事、その後も録画をネタにそれを強制された事、それを知った城之内が、更に私に同じ事を強要した事、そして今回の事も全て話した。


 二人は同意の上だなんて言っていたらしいが、城之内のスマホに私が抑えられながら二人にされている録画有った事から、彼らの言い訳は通らなかった。


 私は恥ずかしけど両親に今までの事を話し、警察に二人を訴える事にした。片角と城之内は強制性交等罪で現在警察の留置場にいる。


 向こうから示談の申し出が有ったが断った。これであいつらは五年は少年院から出て来れないはずだ。両親は慰謝料の請求を向こうの両親にする様だ。


 私は被害者で有るという事で処分は免れたが、もうあの学校には行きたくない。行けばどういう事になるか見えている。だから転校をする事にした。


 両親とも話、転校先は県外の高校にした。私を誰も知らない学校に転校したい。そんな時だった。悠からスマホに連絡が有った。


『友恵、坂口だ。会えないか?少し話をしたい』

『えっ?』


 俺、坂口悠。クラスが違うから友恵が学校に来ていないのは知らなかった。彼女の件が俺の耳に入る様になったけど中途半端だ。仕方なしにこの辺は情報に詳しい絵里から聞いた。


 最初に片角を痛めた時は、とても友恵とよりを戻す事は無いと考えた。だがその後の事は俺の失態だ。彼女がそんな目に遇っているとは知らなかった。


 もしあの時、彼女の言葉に耳を傾てよく考えていれば、スマホを壊さずに学校や警察に届けていれば、二回目の事は起こらなかっただろう。

 それを思うと例え中途半端な気持ちでももう一度彼女と向き合おうと思った。だから彼女に連絡した。



 学校を休んでいる私を悠が気使って、学校の帰りに私の家のある駅の傍まで来てくれた。ファミレスに入る訳にもいかず、駅の近くのベンチに座った。でも私からは何も言えない。


「友恵、今更だけど、事情も分からず冷たい態度を取って悪かった。もしお前が学校に戻って来るなら俺はお前を守る」

「えっ!でも、もう私の体はあいつらに…」

「たとえそうだったとしても、体だけが付き合いじゃないだろう。それにそんな事時間が流してくれる」

「悠…」


 悠が、こんなに汚れた体でもこれからも一緒に居てくれると言っている。誤解だったって事も謝ってくれた。


 涙が自然に零れて来た。でも、悠の優しい言葉に甘えたら学校で悠が辛い思いをする。


「悠、ありがとう。とても嬉しい。でもその気持ちだけで充分だよ。私は私の過去を知らない新しい学校に転校する」

 この言葉を言った時、悠が周りも気にせずに私を抱きしてめてくれた。


「ごめんな。もし俺がもっと友恵の言葉に耳を傾けていれば、こんな事にならなかった。ごめん。本当にごめん」

「悠…」


 悠の胸で思い切り泣いた。大きな声を気にせずに思い切り泣いた。どの位経ったのか分からないけど、少しずつ涙が途切れて来た。私はびしょ濡れになった悠のシャツから顔を上げて作り笑いして

「うん、許してあげる悠」

「そうか」


 もう一度抱きしめてくれた。その後、初めてそうこれが最初で最後、悠は私を家まで送ってくれた。


「ありがとう送ってくれて」

「ああ、元気でな」

「うん」

 悠の帰って行く後姿を見ながらまた涙が出て来てしまった。



 俺、坂口悠。友恵と別れてその後は静かだった。絵里と工藤が五月蠅く言って来るが、俺は前と同じように自分一人で過ごした。もうあんな事はこりごりだ。


 授業はつまらない。出たくも無いが、この学校の単位が必要だ。ボランティアポイントも重要だ。校内活動も重要だが、日本学術会議の手伝いをしている事が理由で俺には関係ないみたいだ。


 しかし、人間という生命体は、何で心という厄介なものを持っているんだろう。今回の恋愛という気持ちもそうだ。人を好きになる、嫌いになるというのは、脳からの物理的な信号ではない。


 人間の意識と心は別物だ。手を動かす事は脳を頂点とした物理法則の実証で説明できるが、心というものは全く解明されていない。そもそも何ものかも分かっていない。RNAまでいや分子レベルまで遡っても全く分からないものだ。


 だが、その心とやらが生み出す感情という、またこれも理解出来ないものによってあんな目に遇ったんだ。


 そう今考えているその物が、どこから生み出される物なのか分かっていない。だから心を閉じるという言葉は本来出来ない事だ。閉じているという事事態が感情だからだ。


 こんな馬鹿な事も考えている内に授業は終わった。



 一学期中間試験が終わって、一週間位してから片角、城之内が退学処分になり、それから二週間後、友恵が転校したと聞いた。友恵から連絡はなかった。



 お昼は一人で、学食で静かに食べた。放課後は、図書室にもう一度通い始めた。武道場は土日行っている。何も変わらない事が一番重要だ。



 今季節は梅雨。今日も昼から雨らしい。俺はこのシーズン。スクールバッグの底に折りたたみ傘を仕舞ってある。


 放課後になり図書室で時間を潰し、予鈴が鳴ったので下駄箱に行って靴を履き替えようとして声を掛けられた。


「坂口君」

 後ろを振り向くと工藤真理愛が立っていた。


「何だ?」

「あの、私傘忘れちゃって」

「はぁ、今どんな季節か分かっているのかよ」

「今日家を出た時は、傘バッグに入れて有ると思っていたんだけど、今見たら入っていなかった」

「だから?」


「だから君の傘に入れてくれないかな。駅まででいい」

 そんな事したら二人とも濡れるだろうが。しかしどうしたものか。仕方ない。


「おい、これ使え」

「だって坂口君が困るでしょ」

「いや、俺はいい。駅まで大した距離はない。走って行けば問題ない」

「でもそんな…」


 彼女に強引に傘を渡すと俺は雨の中を駅まで走った。


 甘かった。学校から駅まで走ったが結構濡れている。これじゃあ平家の落ち武者だ。電車の中で他の乗客が変な目で俺を見ている。


 更に降りる駅からマンションまでも走ったが、この時は、靴の中も下着も全部ずぶ濡れになっていた。



 私、工藤真理愛。坂口君と相合傘して色々話して距離を縮めようと思ったけど逃げられてしまった。

 本当は私の傘はスクールバッグの中に入っている。雨の中走って行ったけど大丈夫かな?


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。



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