ブッコローは背中がかゆい

廿日あきひこ

背中のかゆみが気になって

あぁ背中がかゆーい。


僕はR.B.ブッコロー。体長60㎝のミミズク。翼はちょっと小さめ。


「有隣堂しか知らないせかーい」


カメラを前に、今日の進行など置いといて、頭の中は背中のことでいっぱいだった。


かゆい。背中がかゆい。掻きたい。とっても掻きたい。


でも、困ったことに僕の翼は、背中まで届かない。

掻きたい場所に、届かない。この翼は、短ーい。


あぁ背中がかゆーい。

正直言って、目の前に出てくる文房具のことを紹介しているバイヤーさんには悪いけど、今はこのかゆみのことしか考えられない。


あ、あ、その定規。ちょっと僕に貸してほしい。

機能なんて、メリットなんて、今の僕には必要ない。

ただ一点、背中に届きさえすれば。


「あ、ザキさん。その定規、ちょっと持たせてもらえません?」

「か、かゆいんですよ。背中。その定規、自在に曲がるし、ちょうどよさそう」


受け取った定規を持って、ちょいちょいっと曲げてみる。


Jの形。これ行けそう―。


「よーっと!」


カリカリカリ。


背中にあたってるのは、わかる。でも、そこじゃなーい!


あぁ、定規の角のあの尖った部分が、うまく当たらない。

そして、強く掻こうとすると、定規がしなるー。かゆい場所から外れるー。


なんてことだ!!


「ザキさん、これダメだわ」

「つぎ、そうそのガラスペン!その尖った先がちょーどかゆいとこにフィットしそう」


コリコリコリ。


あぁ刺さってる、刺さってるわー。

痛みじゃないねん。快感やねん。ほしいのは!


「ザキさん、これも違うわー」

「それはどう?そのカニフライのグルーブ」


フワッフワだけど、広範囲が掻けそう!

翼に装着!よっと。


バイーンバイーンバイーン。


あぁ回らんわーこれ。腕ピーンってなってるだけだわー。

可動域狭いわー。正直邪魔だわー。


「ザキさん、チェンジ、これもチェンジで!とってとって」

「というか、ザキさん、背中掻いてくれません?」


「いいですよ。どこですか」


ポリポリポリ。


ち、違う。そこじゃなくてもっと右。あぁ行き過ぎた。あぁあぁ。

そ、そこそこ。そこを中心に、左右に展開していただいて…


「もういいですか?」

「あ、はい……」


どれもこれも、今ひとつ。

悲しー。つらーい、かゆーい。

なんだか、背中全体に鈍い疼きが広がってきている気がするー。


あ、そうだ。

出ていけばいいんだわ。

出ていって、自分で、自分を掻けばいいじゃん!

僕って、天才ですか。


えいっ。


テテテテッテン(移動中)


やっぱり背中見ながら掻くのが、いっちばん見やすいし、ちゃんと手が届くわ。


さてさて、痒かったのここかなっと……


サワサワサワ。

ガリガリガリ。

カリカリカリ。

ペチペチペチ。


う~ん、いかん。

出ていっちゃうと、本体の感覚なくて、自分のかゆい場所、分かんないや。





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ブッコローは背中がかゆい 廿日あきひこ @akihiko_01

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