深夜散歩は好きな人と
だら子
第1話
「あーお腹いっぱい」
お腹をさする。
長いスカートが揺れた。
午前0時。
今日、2人で初めてデートしたお店でご飯を食べた。
駅まで歩く帰り道。
仕事が忙しい2人は、いつもデートは夜9時や10時から。
コロナ禍を経て、閉店したお店も多い中、
このお店が、残っていることを幸せに思う。
(アカリの食べっぷりは、見てて飽きないよな)
ケンタは微笑む。
「最初のデートってさ、まだ好き嫌いもわからないから、『好きなもの頼もう』って言ったら、真逆すぎて笑ったよね」
(俺一人で、食べたよなーたらこパスタ)
「それ!!たらこはそのまま食べるのが一番なんだってば。ってかコーヒー飲めるのに、コーヒー牛乳は嫌いなケンタに言われたくないよ」
風が気持ちいい。東京の4月はすっかり春。
トレンチコートが重く感じた。
「そうだ、コンビニ寄って、ビール買っていい?」
(飲み過ぎだろ)
「ケンタの分のジャイアントコーン奢るからさ」
飲んだ後もう一杯やお気に入りのアイス。
そんないつものやり取りで、いつものコンビニ。
巨大蛍のように、街を照らす。
コンビニを出ると、見知らぬカップルと私たちとすれ違う。
コソコソと話す2人を見て、わたしはケンタに話しかける。
「ああやってさ、道ゆくカップルよく査定したよね」
(あいつら不倫とか決めつけたりしたよなー)
ケンタは一歩先を歩く。
付き合いが長くなれば、手も繋がない。
それが心地よかったりした。
家に帰って、抱き合うこともあるし、触れ合わない日もある。
ただ、触れ合わない日が続いてもこんな日が来るなんて考えたことはなかった。
「今日は、私が全部食べちゃったね。たらこパスタ」
私は大きい声を出す。
なんで私を置いていなくなったんだろ。
黒い服にトレンチコートのまま、私は歩き続ける。
今日の散歩はケンタがいないから何も発見がない。
さっきからやけにあの星だけが眩しい。
私は歩きながらその星と献杯する。
深夜散歩は好きな人と だら子 @darako
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