第37話 俺たちの天国、魅惑

「なんだこれ……」


その動画のサムネイルは真っ暗な闇に包まれていて何も見えない。

ただ、動画を早く見たいという好奇心だけが何故かそこにはあった。


「何で知らないんだよ!じゃあ今すぐ見ろ!」


奏多は俺に画面を見せたまま、再生ボタンを指を回して押した。



~~~


暗い画面の中に1人の男が奥の方からぼんやりと現れた。

男が前に進むにつれて徐々にはっきりと見えるようになっていく。

男の顔は髭が目立つが端正な顔立ちで体型もスリムである。


その男がさらにさらに近づいてくる。


顔面がドアップになった頃、男は立ち止まり一言発した。


「フェーズ1…開始」


途端男は画面から消えた。


と思うと、真ん中に1人の少女が立っていた。


白いワンピースを着た黒髪の少女である。


その少女が一拍置いたあと、ゆっくりと振り返った……

瞬間動画は終わった。


~~~



「なんだよこれ……やべぇ……!」


そこまで凝った内容では無いこの動画に何故か惹き込まれる。

見た途端、自分が興奮しているのが体の芯から分かった。


「なぁ!やべぇだろ!この映像が今世界中で拡散されてるんだよ。何故かずっと見てしまう…って。ほらあのテレビにも」


店に置いてある1台のテレビから先程見た映像が流れていた。

俺はTwitを開き、トレンドを覗いた。


『ゲンテンオブムーンクエイク』というワードを検索すると、世間の反応が見て取れた。



『ゲンテンオブムーンクエイクやばすぎ!俺もやってみようかな』


『マジで楽しいゲンテンオブムーンクエイク。やめらんねぇ』


『ゲンテンオブムーンクエイクのあの動画なんなんだろう?なんかちょっと怖いね笑』


『今テレビでゲンテンオブムーンクエイクのCM流れた!!』



そのどれもが無限を賞賛する内容で俺は少し寒気がした。


「ほら、周りでもみんな言ってるよ」


店の客の口からも無限というワードが度々聞こえる。

なんならゴーグルを装着してプレイしている者までいる。


ここはやっぱすごいな。


俺たちが遊んでいるこの約束の店の名前は"ゲーム堂"。いわゆるゲームカフェだ。

あらゆるゲームが備わっているこの店は、プレイしながら飲食できるのを売りにしていて俺と奏多との遊びは大抵この場所を用いている。


俺たちにとってゲーム堂は天国だった。


「そういえば了はどんくらいまで進んだ?」

「俺はイクシードだね。奏多は?」

「俺は"ジェイル"ってとこ。イクシードよりはもうちょい先かな。早く俺のとこまで来いよ!」


そこから俺らは午後の3時まで無限の攻略や別ゲーの話を語り合った後、解散した。

ゲームに囲まれて友達と同じ話題で盛り上がれて幸せな空間だった。

帰路の最中、あの映像を見た影響か、ずっと無限をプレイしたくてうずうずが収まらなかった。

家に到着した途端俺はまたゴーグルを頭に装着し、無限の世界へと意識を移した。


--続く

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