第5話 初クエスト、毒

「とりあえず自己紹介しませんか?」

「そうだね!呼び方とかも決めとかないとだし」


2人は酒場にある1つの丸テーブルを囲み、話を始めた。


「俺はわん。普通にわんとか呼び捨てで良いよ!」

「わんさん…わかりました!えと…私ですね!私はメイです!私も呼び捨てで大丈夫です…!」


少し話してみて分かったが思ったより根暗という感じじゃないな。

まぁそらそうか。ゲームのキャラと現実のキャラは違うしな。


自己紹介が終わり、2人はクエストの内容をお互い確認した。


俺が選んだクエストは"毒キノコ採集"

名前の通り、森に生えている毒キノコ"ドクドク茸"を30個採集するクエストだ。

報酬はこのゲームの通貨である"Gゴールド"を100Gだ。

これが報酬的にウマいのかどうかはまだ分からない。


「30個か…大変だ…!」


メイは驚いているが俺にとっては30個など0と変わりない事だ。

俺は依頼の紙を看板娘である、胸にアリサとネームプレートを付けているブロンド髪の美少女に渡した。


「毒キノコ採集ですね!分かりました!ではこれを!」


アリサから依頼の紙に受諾とスタンプを押されそれを返された。

クエストを達成してこの紙をまたアリサに渡すと報酬が貰えるらしい。


「それでは…行ってらっしゃい!」


アリサに見送られ俺たちは酒場を後にした。

森からアイロニーに入ってきたように同じ場所から森へ出る。

ドクドク茸のよく生えているポイントまでは少し距離がありそこまで歩く必要があった。

その間お互い無言で気まずい時が流れる。

その流れをたち切ったのはメイだった。


「わんさんはこのゲーム始めて長いんですか?」

「いやいやいや!俺は今日始めたばっかなんだよ」

「そうなんですね…!私は始めて1週間くらいですね。私の方が少し先輩なんで色々教えてあげますよ!」


うーん全部自分でクリアしたいから正直要らないなー

ありがた迷惑って感じ。

でも一方的に断るのもあれだし…


「…ありがとう!じゃあまた今度お願いします」


メイは満面の笑みでニコッとした。

…可愛い……


「じ…じゃあわんさんの…」

「あ!着いたよ!」


目の前にチラホラとドクドク茸が見え始めた。

ドクドク茸は茶色のキノコで現実であっても絶対に毒キノコだと分かるくらい怪しげな模様がカサについていた。


「じゃあやりますか!」


2人は採集を始めた。

ドクドク茸の根元から手でぐいっと引っ張る事で全体を取り出すことが出来る。


「よいしょっと…ヤッター!……え?」


メイが頑張って1個採集を終えた頃、わんはその3倍のスピードで流れ作業のようにキノコを採集していた。

走るのとほぼ同じスピードでいちいち屈まずに両手を使って採集している。


「……あ…」


メイは唖然として口を少し開けているが、そんな事は気にせず俺は続ける。

俺にはクエストクリアとは別の目的があった。

それは、ドクドク茸をカンストまで採集する事。

たまたまこの場所に来たので一石二鳥という訳だ。

だがそんな事メイは一切知らないので質問を投げかけた。


「…わんさん凄いですね!でももう30個集め終わってませんか?それ」


俺は採集を続けながら回答した。


「あぁ気にしないで!個人的な趣味だから」

「……」


徐々に加速する採集マシーンと化した俺に反してメイの手は完全に止まった。


「やばいやばい…」


メイは顔を覆うように両手を当て、しゃがみ込んだ。


「…かっこいい…!」


メイの頬は過去最大級に赤らんでいた。

--続く

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