第3話 宵の口
古代から、分かれること久しければ一つになり、一つになること久しければ分かれるという……らしいけど
「天下の情勢はともかく、私の心も一つになることないんですが」
周りはみんな、何かに夢中になっている十三の頃。
「虚しぃ」
両親にさえ「何をやっても中途半端」「中途半端の代名詞」と呼ばれていた私は心熱くなるものも、夢も何もなく、ただ、生きていた。
取り柄は命だけしかなかったから、生きるしかなかった。
当時の私には読書、という有り触れた趣味以外、これと言って好きなことも特になかった。特技は本当に何もなく、成績も見た目もパッとしない。
それなのに、イジメの標的にされ無駄に目立っていた。
生きることも、死ぬことも許されない日々。
心解り合えないクラスメイトや教師と毎日同じ空間に居ることは、私個人の意見や力ではどうにもできない、法律によって義務付けられた悲劇だった。
同じ国の、同じ時代の人間なのに、彼らの言動は理解に苦しむモノばかりだった。
口先では、クラス一丸となって仲良く、とはいうものの、その実はクラス一丸となって陰湿に。同級生だけではなく担任教師も仲間入りする団結力は圧巻といえるだろう。
家庭で教えてくれないことを教えてくれるのが学校だというのなら、当時の同級生と担任教師は、人間の陰険さや腹黒さ、平気で人を傷つける言動がまかり通る理不尽さを教えてくれたので、充分に学校としての責務を果たしたと言えるのかもしれない。流石は義務教育である。
頼れる人も、心の支えとなる人もいない、十三年間の何もない人生だけが全て。耐えても、耐えても、誰も助けてくれない現実。助けを求めたくても、届かない、声。
ゴミ扱いされる生き地獄の日々の中、風の前の塵に等しい存在だった私を助けてくれる人はもちろん、放置しておいてくれる人もいなかった。
生きていることさえ許されない、存在。
誰に何をしたわけでもないのに……いや、何もしないからだろうか。
反撃も泣いたりもしないから、逃げたり、助けを求めて誰かに相談も出来なかったから、心休まることのない日々を送る私は、彼らにとって安心できる標的だったのかもしれない。
「イジメられる方が悪い、少なからず非がある」という前提だからこそ、止むことのない精神破壊行為は堂々と続けられ、自分が悪いと思い込まされるからこそ、家族や友達には言えない。言ったところで不快にさせるだけだから。
ただただ、平穏に生きられたらそれだけでいいのに。
生きていることに罪悪感を抱かずに、生きていてごめんなさいと思わずに、穏やかな心で空気を吸って吐きたいだけだったのに。
そんな願いさえ聞きいれてくれず、悪意を持って次々と生きることを放棄するよう心ないイベントを仕掛けてくる神様、仏様。
この時の私にとっては、天地人、全てが私を忌み嫌う敵にしか見えなかった。
天地人、だけではなく神仏さえもが敵となっては「命を大切に」と詭弁の刃を私の首筋に当てるだけだった。
かといって、勧められるがままに死を選んでも、彼らは後悔はしないだろう。
いっとき、神妙な仮面を被って葬儀に参列したら、その間、授業がなくなってラッキー、程度にしか思わないのだろう。
私同様、生きることに苦しんでいた同級生もいたが、彼は耐え切れず自殺した。それでも誰も彼の心意を探ろうとはしなかった。
さて、次は私の番であろうか。
「このまま生きるわけにも、死ぬわけにもいかない……」
自分の生き場、居場所を失っていた私は自分自身の存在価値を疑い、健康な体を恨んだ。
「もうこの世の中で生きていても意味がない! けどあの世に逝く勇気もない」
十三歳の私には自分の現在地だけが世の中の全てと映っていた。
だけど、自殺をしたら親が悲しむ、自分の存在が罪過であったと認めてしまう。
どうすればいい?
どうすれば、私は……私の存在は赦される?
十三年分の経験(物心つくまでの執行猶予も含め)だけを頼りに、誰に相談することもなく悩みを打ち明けることもなく、自分の命の扱い方に悩んでしまった私が、人生を考える前に、人生を放棄しようとした時だった。
一八〇〇年の時空と国境を超えて「あのお方」が私の人生に降臨したのは。
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